シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「煌…」
櫂は笑った。
「根本は、何も変わらない。
お前だって、変わらないだろう?」
櫂の根本は何なんだろう。
首元に揺れる小さな指輪。
どう見ても安物のガラクタ。
だけどあれは…櫂にとっては思い出の、大切な品なんだろう。
芹霞が赤い箱に入れる程には、櫂にとっても重要なものなんだろう。
時折櫂が、その指輪を握り締め、唇を寄せていたのに気づいている。
辛そうでだけど幸せそうで。
12年分の、芹霞への愛がそこにはあった。
その愛に触れると、櫂の顔がより"男"のものとなる。
美貌が一際強く輝くんだ。
俺が憧れる気高き獅子は、限界知らずに…更に上に行くのだろう。
美も強さも。
芹霞への愛故に。
そんな気がするんだ。
だけど――
そんな男を、芹霞は選ばなかった。
――玲くんが好きです。
………。
ああ、やべ。
また思い出してきちまった。
ずずんと気分が滅入りそう。
俺は頬をぱしぱしと叩いて、気を引き締める。
俺は今、櫂と共に…裏世界に来ているんだ。
こうした油断が、櫂を危険に陥れる。
ふと、思う。
今…櫂と共に裏世界に来ていなかったら。
もし櫂が裏世界に連れるのが桜で、俺が玲と芹霞の元に行っていたら。
俺は…ここまで精神を落ち着かせていられただろうか。
ふと一瞬…ちらりと思い出すだけで、心がこんなにきりきりと痛むのに…2ショットの現場に俺が居たら…。
多分、荒れ果てていただろうと思う。
櫂が力を暴走させてまで荒れた心が、俺にはよく判るんだ。
俺は櫂程、物分かりはよくねえ。
だけど櫂は――
玲に負けたと潔く認めて、
その上で奪いに行こうとしている。
玲との友情を反故にするわけではなく、憎悪や怨恨をぶつけるのではなく…今まで通りの慈愛を持って、やはり窮地にいるままの玲を救おうとしている。
櫂は…どちらも諦めない。
2つとも手に入れる為に、
自分を強くさせようとしている。
きちんと自分が納得出来る、状況打開策を打ち出したんだ。
例え緋狭姉が暗躍し、久遠が心を露にさせてまで、櫂の心を壊さずに動いたのだとしても、櫂は自ら最良の答えを出し、裏世界へ行く決意を固めた。
その…頭の切り換えの早さと、意思の強さ。
俺にあるだろうか。