シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「へえ…こんな場所だったのか」
突如、笑いながら出現したのは櫂。
「櫂!!!?」
そして――
櫂の肩の上には、引き攣った顔をして笑っている小猿。
何かもう…笑うしかないといったような、そんな空笑い。
笑い猿だ。
「櫂、これ…どういうことか、お前には判るか!!?」
さして驚いてもいねえ櫂に、俺は思わず怒鳴るようにして聞いた。
「元々…此処が本当の空間だ。疑似草原風。青空のような空から落ちてきて、回転と同時に…無意識に俺達の平衡感覚が崩れ、更に視覚に…コンクリートで覆われた空間という幻を与えられ、偽の感覚が本物だと錯覚した。
穴から抜け違う場所に出たという感覚は…
正常の"感覚"回路に戻ったと言うことだ。
俺達は実際…落下はしていないはずだ。
落下とは、あの部屋に惑わされた…俺達の五感が"錯覚"しただけ。
そして――
落ちたという…危機的な切迫感により、本能が…偽りに麻痺していた感覚を緊急避難的に…猛烈な速度で正常なものに再現し、結果…俺達の正規の五感が蘇ったんだ。
お前…眩暈や耳鳴り、大丈夫か?」
「へ? あ、ああ…なんか落ち着いた…」
「此処に来るときにそれらが襲ったのは、お前だけじゃない。全員そうだ。多分…俺達の意識ない時に回転された衝撃で、三半規管までもが衝撃に麻痺でもして、更に外因的に感覚をおかしくさせていたんだろう。それが…ありえない真実の"ショック"で元に戻ったんだ。
此処はあの部屋でもある。
ただ…もう俺達の目には、そう映らないだろうが」
俺…落ちてねえの?
草原の一部分に…喫茶店の床が転がっている。
しかも…2つに割れている。
櫂が穴から落とした…床だ、間違いなく。
「お前…何であれ、穴に落としたよ?」
「ああ…触覚のショック療法をね。落としたはずのものが、地面から衝撃を感じたろう?」
俺はこくこくと頷いた。
「お前が壁を切っても手応えなかったのも、あの場には物理的障壁がないから。
音が視覚と違う音色を放ったのも、全て錯覚。
電波が通じるのも…この場所に準じて。
俺達の五感が、矛盾を感じて違和感を覚えれば…元に戻る術となる」
それで元に戻った結果が、この景色?
これが真実?