シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「こ、小猿は…なんであの部屋に戻って来たっていう主観があったよ?」
櫂は肩の上のへらへら小猿を地面に降ろした。
「パニックになって、正常な感覚が蘇らなかったんだ。まだ…眩暈もしていたみたいだから、元々三半規管が俺達よりも鋭敏で、かなり衝撃を受けていたんだろう。
多分、もう大丈夫だ。
おい…翠? 此処が判るか?」
頬をぱしぱし叩かれた小猿は、少し目を細めながら顔を引き締め、櫂に縋るようにもぞもぞと動き出した。
小猿が親猿に起こされて、甘えているような仕草に思えたのが笑えたけれど。
「あれ…? 空? 草? まだ幻?」
きょろきょろとあたりを眺めている。
「小猿。此処が本当の場所みたいだぞ」
「へ……?」
頭はまだ動いていないらしい。
「櫂、こいつ大丈夫かな? ショックで…先祖返りしちまったら…」
「だ、大丈夫だ!!! 俺はこれも"男"の試練だ!!!」
説得力に欠くような顔色で、大きな大きな空笑い。
俺はこっそり櫂に聞いた。
「櫂…小猿の力、使う必要あったのか?」
「ない」
驚く事に、櫂はあっさりと言いのけた。
「必要あるとすれば…万が一の保険ぐらい。翠の壁抜けの力は、下に空間がない地面なら…まるで意味がなく、不可能だったはずだ。地下があればあったで面白いが」
面白いか…?
「翠を使わなくても、あの穴から飛び降りればGAMECLEARだったろうな。現実…俺も翠肩に担いで穴から飛び降りて、眩暈の先に此処の場所が再現したんだし。
壁抜け云々は…翠の度胸試しだ。実際どうであれ、決心出来ただけでも1歩前進。放り込んだ穴が、"アタリ"でよかったよ」
まだ笑い続けるへらへら小猿。
余程ショックが大きかったらしい。
「煌、あいつには黙ってろよ?」
櫂が悪戯っ子のような顔をして、唇の前に人差し指を立てた。