シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「紫堂、もういいのか…?」
遠坂が八の字眉で、櫂に声をかけていた。
――少しだけ、先に外界に行っていてくれないか? 少しだけ…だから。
そう云って僅かな時間、地下に1人残っていた櫂は――
地下が繋ぐ…"約束の地(カナン)"に残してしまった久遠達に、思いを馳せていたのだと思う。
櫂は世間では畏怖される切れ者の完璧主義だが、非情でも何でもねえ。
寧(むし)ろ、慈愛深くて情に厚い。
"約束の地(カナン)"は俺だって思い入れが深い土地だ。
だとすれば櫂なら尚更――
自らを匿(かくま)った土地が破壊されて行く様を見て、揺れずにいられるはずはなく。
自らを生かした奴らを捨てて、自分だけ安全な場所に逃げることが出来るはずはなく。
例えそれが緋狭姉の指示で、地下の第4層とやらに緋狭姉共に移動しなければ全員壊滅状態であったとはいえ…
例え櫂が"裏世界"とやらに行くのが状況打開の必然的事象だとしても。
魔方陣ごと全員を外界に運ぶことは…物理的に不可能であることを知っているから。
もし可能であるならば、櫂はどんなことをしても久遠達や緋狭姉を連れ出していただろう。
現実、それは不可能だからこそ、緋狭姉は"約束の地(カナン)"に来たんだ。
時間に拘っていたのは…多分、"約束の地(カナン)"が0時近くに破壊されることを知っていたのだろう。
あの時――
――俺と共に死んで貰う。
物騒なことを吐いた櫂は、その後笑いながら言った。
――"赤い魔法使い"は時間を告げた。急いで、移動を完了させろ。
それでぴんときたらしい久遠は言った。
――如月。荷物は既に蓮が纏めてある。蓮の指示に従い、紫堂櫂と共に先に行け。此処はオレが時間を稼ぐ。時間を稼ぐことが出来るのは…オレだけだ。
――久遠…。
――勘違いするな、紫堂櫂。せりの無事の為だ。紫堂玲と無事に避難させてやる。葉山、お前は…。
――桜。お前は玲の傍に居ろ。
――櫂様、私は…。
――桜。言っただろう? 次期当主を守る警護団長はお前だ。お前は玲を守れ。
――櫂様…!!!
――久遠様、10分になります。葉山桜。これは芹霞の荷物。紫堂玲の薬を入れてある。さあ紫堂櫂、如月。紅皇を連れて行くぞ!!! 久遠様、お待ちしています!!