シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
さっきから、櫂がずっとアホハットに詰め寄っている。
細かく質問すればする程、明らかに言い淀むアホハットに、櫂が不審がって更に詰め寄る…その繰り返し。
そして、まだ胡乱げな眼差ししたまま、櫂が攻撃を一時停止すると…
「なあ、紫堂櫂…さっきのこと、疑問あるんだけれど…ちょっと聞いてもいい?」
まだ釈然としねえらしい、小猿が櫂に寄って行って、アホハットとの攻防戦はひとまずお開きとなった。
「ふう…ホンマ櫂はんは手強いな。あ、ワンワンはん、これ弄られはりまっか?」
俺…一生、携帯電話というものに触れられねえと思ってたのに、手に出来ること自体、凄く嬉しい。
思わず頬にすりすりしちまった。
それでも爆発しねえのにじーんとくる。
アホハットから説明受けた"ついった"だとかいうものは、日々の愚痴を書き込んで"捨て去る"もので、アホハットが使いやすいように改良したらしい。
"ひーちゃん印のついった"と書かれたボタンを指で触れると、出て来る自分の名前のボタンを押せば、文章を書き込む画面になる。
平仮名のボタンを押しながら指をスライドさせる入力方式が、小猿と櫂はどうも苦手そうだったけど、俺は普通の携帯なんて使ったこともねえから、そういうもんだと慣れていったんだ。
予測変換の方が俺より頭いいから、余計な単語入力しなくてもいいし、書き終えたら"吐き出す"ボタンを押せばOK。
"昔を振り返る"というボタンを押せば、セキュリティーだかなんだか…最初に俺達が自分で決めた数字4桁のパスワードを入れれば、今まで"吐き出した"ものが一覧表示される。
自分が入力したものが、全て表示されるのは圧巻だ。
俺もう…ハイテンション!!!
凄えや!!!
「パスワードさえかければ情報漏洩がないなんて…古い古い…いひひひひ」
「ん?」
何か今、アホハット周辺から、へんな笑いが聞こえたけれど。
「何や?」
訊いてくるアホハットの顔は、いつも通り。
「いや…」
「おかしなワンワンはんや」
気のせいだったらしい。