シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

回転 櫂Side

 櫂Side
*******************



「なあ…紫堂櫂」


翠が俺に質問してくる。


「俺…絶対、穴から落ちたんだよ!!! 体が落ちたって言ってたのに…それも錯覚なの!!?」


五感の錯覚、故の矯正。

そこら辺が掴めていない翠の疑問は大きいようだ。


つまり、俺が狙いとしたものの理由が、まだ謎らしい。


「……。そうだな…翠…お前、落下する夢、見たことあるか?」


「落下? そんなのしょっちゅうさ!! ひっぱられたり、突き落とされたり。刃物で斬られたり、首絞められたり、ぎゃーっ痛い、ぶつかる、死ぬーッッて目が覚めるんだ。

前なんて、ナマハゲ出たぞ、"なぐごはいねが!?"って。俺、現実見たことないのに、どうして夢に出て来ると思う?」


「…お前、余程精神的に追い詰められているんだな」


「???」


何だか翠の抱える心が痛々しくて、思わず頭を撫でてしまった。

翠は確かに、庇護欲をそそるタイプかもしれない。


「今回のことは、夢を見ていたのと同じ感覚だと思えばいい。夢の世界でどんなに痛い目に遭おうと、針のむしろに落とされようと…ショックで目が覚めれば、自分の体は、布団から一歩も出ていないことに気づくだろう? 

夢という名の別世界で感じたリアルな感覚も、所詮は"疑似"…錯覚だ。それが、殺されるという本能のSOSで、目覚めと共に感覚が正常に戻る」


「………。夢みたいな錯覚…。現実か錯覚か…俺、感覚に自信なくしてきちゃった」


「特別難しく考えることはない。音を鳴らしたり、何処か切ってみたり…壁やありえない溶岩、穴が見えたり…。そんな疑似感覚、夢では当然の感覚だ。

その中で如何に、確固たる主観を確立できるかで、世界の様相が変わる。

惑うなら…夢の中で夢だと思ってみればいい。いわゆる明晰夢だ。現実ではない…"夢"という異次元だと自覚出来る夢。見たことないか?」


「それ…紫茉がよく言ってる奴じゃないか。俺、駄目なんだよ。いくら寝る前に、お経みたいにむにゃむにゃ唱えて寝ても、夢の中に居れば夢に染まって。

ああ、だけど…怖い夢以外に、うまいもんや甘いもん食べてる夢では、凄い充足感を感じるんだ。ああ、この世界はなんて素晴らしいって。現実ではこんなおいしいものをたんと食べられないって。これらの類は…明晰夢?」


「夢だと自覚してないから微妙だが…現実ではない別次元だと認識しているということは、明晰夢の入口くらいには至っているのかもな。そうか、お前にとっては、食い物が鍵か」


何だか笑えてきた。

< 165 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop