シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「作っていくぞ。希望は、自分が実現するものだ」
「うん……」
ぱちぱちぱち…。
突然拍手が聞こえてきて、翠と共にそちらを向けば、
「ワンコ…聞き耳立てるなよ…」
煌だった。
照れたように口を尖らす翠に、
「でかい声でキーキー喋れば、嫌でも耳に入るって」
煌は豪快に笑った。
そして煌は情報屋と、翠はクマと。
それぞれiPhone持って話し込んでいるから、俺は少しばかり…俺に充てられたiPhoneというものを弄ってから、ふと辺りを見渡した。
情報屋に正解だと言われた、新たな景色。
青空に入道雲。
陽光が差込んだ地面は、辺り一面緑の草々に覆われている。
そよそよと流れる風が、草を静かに揺らしている…そんな長閑な草原光景。
「………」
ひっかかるんだ。
俺の見立てでは、この空間に入った際に回転したから、俺達の三半規管が狂ってしまい、正常な五感が持てなかったということ。
この件については大丈夫だと思う。
現に俺の信念に従い、石灰の部屋は消えたのだから。
ひっかかるのは…俺が石灰の部屋で情報屋に回転案を告げた時、情報屋が意味ありげに笑っていたこと。
回転という単語に、俺はまだ補足が足りないらしい。
そう考えて見れば、今拡がる大自然では、俺の見立てを説明するには不自然で。
今が11月なのに、草が生い茂り気温が高い…というこの気象のことよりも、回転出来なさそうな風景だということが、俺を考え込ませる。
気象の疑似なんてどうとでも出来る。
現に"約束の地(カナン)"における青空及び夜空は、白皇の機械によって…今は無き円蓋(ドーム)に投影されていたものだった。
幾らでも本物だと信じ込ませるだけの物理的手段は、存在するのだから。
ただ…どう触っても、草だけは妙にリアルで活き活きとしているから、もしかすると草だけは本物なのかも知れない。
しかし今、問題とすべきはこの自然の真偽ではない。
この遙かなる大自然ごと回転するのだとすれば、物理的に…それが転がりを許容するだけの、更なる外側があるということだ。
それはどう考えても、無理があるように思えたんだ。
この空間が本物だと…俺が先程出した結論を正解としたのに、情報屋が実はこれも幻でしたなどと、後で取り消すことはしないと思う。
そこまで性悪な男には思えないんだ。
だとすれば、この大きさを俺は許容しなければならなくなる。
この大きさで回転したから、三半規管が狂ってしまったと。