シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


今、櫂の地盤は何もねえ。


肩書きも、紫堂のサラブレッドたる血統の信頼性も…愛情も。


だけど櫂が櫂で生き続ける限り。


俺は…死ぬまで櫂の幼馴染で、櫂を主として慕い続ける。


何処までも櫂と行く。


きっとそれは…俺だけではねえはずだ。


桜も玲も…。


櫂は…1人じゃねえ。



俺達が居る。


必ず、櫂を笑顔にさせてみせる。



「煌」



櫂は俺に言った。


僅かに揺れる…憂いの含んだ漆黒の瞳で。



「――今の俺には何もない。

地位も名誉も…何1つ。


俺は…表舞台から消えた人間だ。


俺にあるのはただ…

今の俺が紫堂櫂と信じ続けている…


この肉体と頭だけだ。


それでも…もし、お前さえよければだが…

無理強いはしないが…」



俺は、櫂の首に腕を巻きつけ笑った。



「何気弱なこと言ってんだ、お前?

俺はお前がお前であればそれでいいんだよ。

お前が生きていればそれでいい。

お前は俺の飼い主様だろ?

何処へとも俺は着いていくぜ?


お前が"裏世界"に行くというのなら、俺も入ってやる。

拒んでも何しても、追いかけ回してやる」



「ありがとう…煌」


そう、声を震わせて言うから。



「お前泣き虫になったな、櫂」

「お前だって似たようなもんだろ、煌」



ああ、何かいいな。

櫂とこういう空気が持てるのはいいな。


幼馴染でよかったなって…本当に思う。


櫂が辛くて哀しい時、俺は櫂についていてやれるから。

櫂が嬉しい時、俺は櫂と共に喜んでやれるから。


櫂は1人じゃねえよ。

1人になんか誰がさせるかよ。

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