シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



僕は、携帯を開こうとする芹霞の手を、思わず掴んだ。

目で訴えた。


「玲くん…」

「………」


「電話…かけようと思うんだけれど」

「………」


「玲くん…」

「………」


「何で…この繋ぎ方?」

「………」


強制恋人繋ぎ。

加えて、"僕は此処に居る"とにぎにぎして自己主張。


「がっちりされたら、携帯かけれない」

「………」


にぎにぎ。


「玲くん…あたし紫茉ちゃんに…」

「………」


にぎにぎ。


「…玲くん、紫茉ちゃん…」

「………」


中々伝わらない僕の恋心。

繋いだその手に唇寄せて、だけど目だけは芹霞を追いかけ、芹霞に訴える。困ったような顔をしている芹霞に、一生懸命訴える。


それでも――


「紫茉ちゃん…」


だから僕は、ぼそりと言ってみる。


「…僕は、"彼氏サン"…」


詰るような目で。

途端に変わる、芹霞の顔色。


「かか、かかかか…」


ぼぼぼっ。


………。


よし。

これで芹霞の頭の中から、紫茉ちゃんは消えた。

この単語の威力は破壊的だ。


………。


だけど満足感がないのは何故だろう?


言葉で相手の心を惹き付ける…。

それは僕自身の魅力ではなく。


………。


言霊使いの久遠が、やたら言霊を使いたがらない理由が、何となく判った気がする。


だけど…いいや。

意識してくれてるだけでも、いいや。

無反応(ノーリアクション)よりは。



その時、えへんえへんと、わざとらしい咳払いが聞こえて。


「師匠…ラブラブ中悪いけれど…最後の"DL6"なんだけどさ。これだけ、毛色が違うデータなんだよ」


僕は、芹霞と手を繋ぎながら画面を覗き込んだ。

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