シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
煌は…さすがだ。
あんな重い鎖をつけられているのに、軽やかに飛び跳ねるようにして青色に触れていく。
それは足であり、手であり、それらの指先であり。
瞬時の判断での素早い移動に、空に靡(なび)いたままの長い鎖は、他色の地に触れることなく、本当にそこまで重いものなのか疑わしくも思ってしまう。
崖ではない場所にしても…煌の本能が理屈抜きに、思考抜きに…最善の場所に体を導いているのだろう。
その反射的な身軽さはきっと、緋狭さんとの鍛錬の賜物であり、2m近い巨体とは思えぬ…機敏な動きを、余裕顔で見せつける。
羨ましい限りの…肉体だ。
クアアアアア!!!
「翠は!!!?」
翠も青ざめながら、何とか炎を避けている。
彼は…以前、初めて七瀬宅に行き、朱貴の八門の陣で逃げる時にも感じたが、七瀬共々…体術の基礎はあり、実戦でも十分戦力となりえる。
軽やかな身のこなしは、生来の卓越した運動神経だけではなく、長年かけてきちんと訓練されているように思えるんだ。
術の訓練はさぼっていても、体術だけは…例えば遊びのような形で、朱貴…いや皇城家自体から稽古をつけられてきたのか。
煌程の洗練された動きはないにしても、やや曲芸じみても思える軽快さで、確実に炎を避けているようだ。
だが――
残念なのは、体と思考が一体化していないということで。
「次の青色は…ええと、ええと…あった。あそこ!!!」
先が読めないから、都度どう動けばいいのか…思考に時間がかかりすぎる。
目から脳に、脳から体の…当たり前の回路の指令は、普通の場合ならばいい。
だが…今の場合、それでは反応が遅すぎるんだ。
1秒の狂いが、次に続かなくなる。
「あれ、あれれれ!!!? 青…青がない!!!!」
そうなった時――
「!!! あったあった!!! うわ、あんな遠いトコ…どうやって行こう!!!?」
そこからの判断では、時間がかかりすぎる。
「ニノ!!! 直前までの色の場所に戻るのはいいのか!!?」
『お答えします。定義(ルール)に規定はありませんので、OKです』
俺は、倒立状態で宙に翻している最中、翠に叫んだ。
「翠、戻れッッ!!! その場から動かなければ、10秒定義(ルール)にひっかかる!!!」
「え!!? あ、判った!!!!」
多分、ぎりぎり…翠は何とか逃げ続けられているようだ。