シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
小猿の手が小刻みに震えている。
震えているようだ。
共鳴の…武者震いに近いものだろう。
櫂の…王者の覇気にやられたんだ。
人の上に立つ男というものは、こういうものだと…小猿も判ったはずだ。
櫂にとって緋狭姉のように、
小猿にも導く者がいる。
緋狭姉は櫂の為に利き腕を切り落とした。
しかし小猿の為に、導き者がしてきたことはただの慈愛。
過保護が悪いとは言わねえ。
だが導き者の"犠牲"を間近に見た櫂は、失うという自らの"犠牲"でもって、櫂なりの状況を打開する方法を模索したのに対し、
導き者の愛だけしか見ていねえ小猿は、それが無くなり1人になれば、ただ狼狽(うろた)えて逃げ出すことしか出来ねえ。
強くなろうと思ってもこれじゃいけねえと思っても、じゃあどうすればいいのか…具体的な方法を考える力を養わせて貰ってねえんだ。
守られ慣れしすぎているが故に。
他力本願になっちまう。
奪われたら奪い返す。
それが俺らの『気高き獅子』。
もし眠れる状況になるのなら、皆が櫂を叩き起こす。
それが俺らの関係。
だが小猿には、目覚めさせる者がいない。
だから多分…
櫂は自らそれを買って出たのだろう。
櫂だって…それ処じゃねえのにな。
だけど…だからこそ、櫂なのか。
小猿は俺の服から手を離し、聖の前に赴くと。
「俺を…紫堂櫂とワンコと共に、
裏世界に行かせて下さい」
そう頭を下げたんだ。
プライドだけは大人顔向けの小猿が。