シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
そして耳に聞こえたのは、かつて…桐夏の学園祭で、Zodiac潰しに櫂とツインボーカルで歌った"奴ら"の曲。
ビヨビヨンという…三味線のような早いベース音から始まって、ずんずんとした重低音のドラムがやけに忙しいアップテンポの曲。
「ああ、しまったな。これオリジナルか。さすがのニノも、俺達が桐夏の学園祭でアレンジしたあのバージョンは…」
『お答えします。用意しております、櫂様。そちらに変更します』
「え!!?」
さすがの櫂も吃驚したようだけれど…。
また音楽の様子が変わった。
これこそ――…
「間違いねえよな。桜の…オリジナルより格段に早いベースと、ギター代わりの…ベースに絡み付いて叩き付ける様な玲のピアノ。アレンジ版で間違いねえ…ねえけどよ」
俺は櫂の手の中のiPhoneに叫ぶ。
「なんでんなもの、用意してあるよ!!!?」
『お答えします。必要だからです』
これ…納得できる答え?
むかっ。
「おい、ニ「ワンコ、そんなことどうでもいいよ!!! どうすんの、ねえこの先どうすんの!!! この赤いオニ、何、何!!?」
小猿が泣きそうな声を上げた。
何とか逃げ切れているようだけれど…時間の問題だ。
オニ緋狭姉はいたぶって遊び…徐々に速度を上げているんだ。
俺が助けなきゃ!!
「待て、煌。歌え」
櫂は顔は真剣で。
「何で歌うよ!!!?」
「それが手っ取り早いんだ」
はあ?
櫂は…学園祭までずっと歌なんて歌ったことなくて、どんなに俺と芹霞が促した処で、頑(かたく)なに拒否し続けてきたから、芹霞に音痴疑惑をかけられていた程だ。
学園祭だって、芹霞が夢中だったZodiacがシークレットゲストとして桐夏に来なければ、俺達はあんな即席のゲリラライブを敢行しなかったはずだから、下手すりゃ櫂は生涯歌わずにいたかもしれねえ。
そう、Zodiac対抗意識故だ。
紫堂の好戦的な血が刺激されたからで。
「だけど今!!!
Zodiacはいねえし、それ処じゃないじゃねえか!!!
オニ緋狭姉の攻撃かわして、1秒で次の場所に移動しなきゃいけねえ状況だぞ!!?
何で暢気に歌なんか…」
それなのに…俺に構わず、櫂は歌い始めた。
アレンジバージョンの女視点の歌詞を。