シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
♪AH~今、貴方は誰といるの?
しかも…深くていい声で切々と。
なんとも意味ありげな…台詞を。
…艶っぽい、中音域の音程で。
上空は金翅鳥(ガルーダ)、周囲には緋狭姉の影。
言霊使いの久遠ならまだしも、櫂の歌声で向こうの勢力を抑えられるはずもなく。
だけど櫂は歌い続ける。
全ての攻撃から身を捩って逃れ、色に触れて…空間を飛び跳ねながら。
流石の金翅鳥(ガルーダ)の勢いが少し落ちたように感じるのは…もしかして櫂の声色に聞き惚れているからとか!!?
「煌、いいから歌え!!! 翠も!!!」
「だけどよ…」
「俺を信じろ、煌ッッ!!!」
ああ…くそっ!!!
「小猿、鼻歌でいいから歌え!!!」
「ええ!!!? 俺そんな余裕は…」
「つべこべ言うなッッ!!! 俺だって…余裕ないんだッッ!!」
俺は…
自棄になって歌った。
♪AH~濡れた黒い瞳にいるのは誰?
「はははは。さすがはお前だ。
…思い出すな、煌」
櫂は楽しそうだけれど…。
………。
確かにさ、
櫂とユニゾン…楽しかったけどさ。
皆と笑い合って、1つになって楽しかったけどさ。
芹霞からZodiacの"毒"を抜くことが出来て、してやったりという爽快感と達成感まで感じて、本当にいい気分だったけどさ。
だけどさ…
それを思い出すのが何で今よ!!?
「翠、声が聞こえないぞ。
逃げるより、もっと歌を歌う事に専念しろ!!!」
お前、何言い出すよ!!?
今は音楽のお勉強じゃねえの、判ってるだろ!!?
俺達…オニ緋狭姉相手に逃げ回り…
尚且つ色探して触れているんだぞ?
必死だぞ、必死!!!
歌ったら集中力が…
「大丈夫。この速さは…"ぴったり"だ」
なんでそんなに自信満々に笑うんだ、櫂!!!