シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
オニ緋狭姉が飛んでくる。
ふと…思ったんだ。
オニ緋狭姉は…動きの良いものに積極的に食らいついている。
好戦的なオニの習性か、それともそういう隠れ定義(ルール)があるのか。
弱い者から叩きのめそうというつもりはないらしい。
あくまで素早く動く者に、まずオニ緋狭姉は反応する。
幾度か試してみて、確信が持てた俺。
だから今――
重さがかなり減じられた小猿が一番いい動きをしているわけで、逆に言えば小猿が一番危険だということで。
「な、何でこっち来るの~!!!?」
首飾り担当の小猿の動きが封じられれば痛い。
だとしたら。
「煌…気づいたか?」
「ああ、お前もか」
俺さえ気づくのなら、櫂も気づくよな。
だとしたら。
小猿以上に俺が素早く動かないといけねえ。
「櫂、お前も首飾り取りに行け。まず増やさないと駄目だろ」
俺が…500kgの重み以上に動けばいい。
「しかし…」
「俺…重りつけられ、手足縛られて…高速道路を逆走させられたんだぞ!!? それに比べれば、たかが赤オニの1匹や二匹…」
するとぐるりと緋狭姉がこちらを向いて。
い、言い過ぎたか?
「とにかく、櫂!!! 小猿と頼むぞ、こっちはこっちで頑張るから!!!」
俺は片手で次の色に移動する。
定義(ルール)は10秒なれど、心は1秒のつもりで。
俺は…歌を歌いながら移動していった。
『残り、あと322個です』
『残り、あと279個です』
2色というのも功を奏したらしい。
櫂と小猿が飛び跳ねながら、先刻以上に素早く首飾りを奪っていく。
『いろいろ、どんないろ~?
あはははは~』
「クロッッ!! アオッッ!!!」
変わる度に櫂が叫ぶ。
「踏むのは、黒と赤以外!!!
翠、取るのは黒と赤だぞ!!!」
「判った!!!」
小猿も必死で頑張っている。
微笑ましい猿だ。
けど…この赤オニは微笑ましくねえし。
俺は逃げる。
これ以上ない程、筋肉を動かして…素早く動いていく。
俺に食らいつけ、緋狭姉。
だけど――
現実は…食らいつかないでくれ。
頼むから。
本当に頼むから。