シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
来訪 桜Side
桜side
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紫堂本家に、"異質なもの"が混ざっている。
先刻、紫堂本家に膨れたその気配は、やがて自然消滅した。
それ以降、その気配が動くことはなかったが、万が一のことを思い、警戒だけはしていたつもりだ。
それは私だけではなく、玲様も同じ。
いかに青色に染まろうと、いかに芹霞さんが傍に居ようと…時折私に目くばせするその目は、鋭さを放ち辺りを窺っている様子が見て取れた。
当主による結界が堅固に張り巡らされ、そして尚も警護団が待機しているこの紫堂本家において、自己主張をした後に静寂のままで消え去れることはおかしい。
それがもし、人非ざるモノであれば尚更のこと、異能力集団の本拠地において、一方的な好き勝手は出来ないはずだ。
少しの"部外者"を許さないのが紫堂本家であり、警護団であり。
そういった点においては、警護団が動く気配がないのも気になった。
そしてもう1つ。
遠坂由香と情報屋聖の気配を、遠坂由香と実際に会うまで、紫堂本家で掴めなかった事実も気になっている。
遠坂由香は素人であり、気配を隠す術を持っていない。
素人すら識別できなかった私の感知能力。
これでは警護団長としての資格がないのと同じ。
それが私だけならまだしも、玲様もだというとが妙にひっかかる。
だとすれば。
私達に感知させない"何か"の動きが、この紫堂本家で起きているのではないか…と勘ぐってしまうのだ。
そして不意に現れた、大きな気配。
それが当主のものだということは私も判った。
しかし、その気配の在り方がいかにもわざとらしすぎて、思わず眉を顰めてしまった。
私達にだけ、存在を見せ付けているかのような。
まるでそれは――
「陽動のような登場だね」
玲様の顔も固い。
「この気配に対して、給仕達の動く気配が掴めない」
そうなのだ。
掴める気配は…当主のものと思われるもののみ。
静まり返った紫堂本家。
この部屋の外はどうなっているのだろうか。
一度目で確かめた方がいいのではないか。