シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

あの執事長だってそうだ。


要するに、"甘く見ている"のだ、玲様を。

当主のような…見下した目線でのみ見ているから。


玲様の肩書きは、以前のものになった。


"次期当主"。


つまり、ここの給仕達は、次期当主という肩書きは特別なものではなく…あくまで自分本位な感情でのみ動く、最悪な者達の集まりで。

それを櫂様が一掃されたはずなれど、玲様になった途端…これだ。

この女給仕が何者であるにしても、こうした態度で来たということは、紫堂の空気がそうであるのが普通だと読み取ったからだろう。

体質は…人を変えても踏襲される。


回り回って――

どんなに排除しようと…がん細胞のように根こそぎ落とすことは不可能で、気を抜けば…幾らでも何処からでも再生する。


紫堂とは…そうした厄介な家だ。


玲様は給仕が出て行ったドアを思案顔で眺められていて、


「桜…僕が様子見てくる」


そう真顔を私に向けられた。


「本当に当主に呼ばれていたら行かないわけにはいかないし、何より…僕を此処から連れ出そうとしている動きがあるのなら、僕が歩く方が得策だ」

「しかし……」


「何か…おかしい。あの給仕の顔を僕は今まで見たことがないんだ。ということは、給仕のフリをして乗り込んでいる輩がいるということ。さっき感じた不穏な気配は、あの給仕のものじゃなかった。たとしたら他にも居るかもしれない。気配を掴めない以上、目で確かめるしか術はないよ」

「それなら玲様、桜が…」

立ち上がろうとした私を、玲様が片手で制する。


「お前は本家にずっと居たわけじゃない。どの給仕達の顔が正しいのか判らないだろう? 特に下になればなる程に」


私は言葉に詰まりながら頷いた。


「当主の気は確かに感じている。当主が居るのならば、この異変を感じているはずだ。当主は紫堂で一番の力を持つ人だから、判らないはずはない。だけど動く様子もないよね。

危惧すべきは…僕達が感じているのが本当に当主本人の気なのか。こうも僕達の感知が正常に作動しないとなれば、どの感覚が正しいのか確証が持てない」


玲様は…当主の気配すらも懐疑的なのか。


「だったら、埒あかない。陽動に…乗ってやるしかないよ。此処まで紫堂本家を虚仮にされ、わざわざ僕を名指しでお迎えにきたとならばね」


そして玲様は、


「どうでもいい家だけれど…戻ってくるまでは僕が守らないと」


"櫂が戻るまでは"


それが当然だというように、玲様は朗らかに笑った。
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