シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「虎穴に入らずんば虎子を得ず」


そう宣言して立ち上がろうとした玲様は、芹霞さんと繋いだ手にひっぱられるようにして、体が不自然に傾いてしまった。


「ああ、芹霞。仕方がない、手を離そうね」

名残惜しいというように、芹霞さんの手の甲に1つキスを落として。


「さ…。……芹霞、どうした……?」


しかし離さないのは芹霞さんで。

その物憂げな表情からは、なにやら嫌な予感を感じ取っているらしかった。


「大丈夫だよ、芹霞。ちょっと当主に会って家の中を散歩するだけだから。桜がいるから安心して、君は由香ちゃんとこの部屋で待っていてね?」


そう微苦笑すると、少し屈んで芹霞さんの額に唇を押し当てながら、玲様は…芹霞さんの手の肌を味わうように滑り落として、手を離した。


「玲くん…」


少し潤んだような目で、尚も心配げに見上げる芹霞さんに、


「僕だって、離したくないんだよ? だからすぐ帰ってくるから」


玲様は悲しそうに目を細められて。


別離を悲しむ恋人同士の会話。

ただし…玲様一方的だけれど。


「玲くん、あのね…「何? 僕がいなくて寂しいの? 1秒でも離れていたくない?」


引き止めようとしているのが、判っているんだろう。

確信犯の笑みが見て取れて。


「あたしも一緒に「一緒に居たいの? じゃあ帰ってきたら、ずっと抱き合っていようか。たっぷり僕の愛情をあげるからね。ふふふ」


途端に妖艶な流し目に変え、少し突き出すような形の唇を芹霞さんに向けた。


「桜と浮気しないでね。君は僕のものだからね?」


な、何で…私と…。


「僕の愛しい"彼女サン"?」


そして玲様が出ていかれた後。


ふらり。


芹霞さんの体が後ろに大きく傾いて。


「師匠、此処で色気残して出ていくなよ!! 神崎、抵抗力ないんだから!!! 神崎、おい神崎!! とりあえず、落ち着くまで手で鼻押さえろッッ!!! 葉山、そこのティッシュ取っておくれ!!」


遠坂由香が、慌てて芹霞さんの体を支えた。

私はティッシュを渡しながらも、もう慣れてしまった芹霞さん用"つっぺ"を作る。大きさ、捻り具合…よし完璧。
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