シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「情報収集には便利だと思うけどさ、こっちからの何かアクションしないといけない時は、やっぱりそこそこセキュリティーがしっかりしてるトコロを使わなきゃね。
例えば師匠がメインコンピュータ上に作った、チャットルームとかさ。師匠曰く、こうした流行りもののツイッターとかSNSは穴やバグが多すぎて、そこを突付けばハードの設定無関係で好きなように操れるみたいだから、情報抜かれやすいんだって」
「だったら、そんな危ないのをやらなきゃいいだけですね」
「そうだね、桜ちゃん。話は簡単だ」
つまり、私達は…新たなる機能の使用を拒否すればいい。
そうしたら面倒な話にもならない。
「そうそう。それにこれは師匠のiPhoneだしね。ボク達のにそういう機能があるかどうかも判らないし、判りたくないし。
よし、じゃあ今から3秒後に見た記憶は忘れることにしよう。3、2、1……はいッッ!!!」
パンと拍手を打った時――
『ラーブ、ラブリー、ひいちゃん!!』
私達は無言で…狙ったかのようなタイミングで割り込んできたその声の元を見つめた。
『ラーブ、ラブリー、ひいちゃん!!』
「「「………」」」
遠坂由香は押す気配もなく。
押そうという声は私と芹霞さんからは上がらない。
虚しく、煩い声が響くだけ。
「玲くん…大丈夫かな…」
音声を完全無視することにしたらしい芹霞さんが、不安げな声を出して玲様が消えたドアを見つめた。
「ただのお散歩だけならいいんだけど。……。ここの当主、あたし大嫌いなんだ。凄く…心配で、胸がむかむかする…」
そう唇を噛みしめられて。
「どうすれば、玲くんを楽にして上げられるのかな。どうすれば玲くんが…心から笑ってくれるようになるのかな」
そして悲しそうに天井を仰ぎ見た。
「"玲くん"を…解放してあげたいな…」
「神崎…」
遠坂由香が、八の字眉で言った。
「君が傍に居れば…師匠はきっと、心から笑うよ?」
「だけど今までだって、どんなに傍に居ても…寂しそうに切なそうに…笑っていたから」
「それは…」
遠坂由香は言葉を切って。
「君は…師匠が好き?」
「え?」
「今まで以上に、師匠が好きかい?」
それは泣きそうな遠坂由香の顔。
――紫堂櫂を愛してる!!!
真実を知る彼女もまた、複雑な思いなのだろう。
「うん勿論。あたし…玲くん、好きだよ?」
芹霞さんは自然と微笑まれて。
その自然さにまた…ひっかかりを感じたのは私だけなのだろうか。