シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「Zodiacもさ、前より売れているみたいだしさ。音楽自体もテクノに変えたようで…顔見せしないミステリアス路線に転向したのが功を奏したのかな」
由香ちゃんが操作するiPhoneには、オリコンチャート表。
1位から8位までZodiacが独占。
「CDジャケやCMにも全然顔見せしなくなったから、今ファンになった奴らは、彼らは超絶美形だと勝手に思い込んでいるらしいぞ。ネットの妄想カキコが凄いよ。中には腐った奴もいるし。実際はあんな顔で、そこまで高みに上げられるのなら、ボクの周りにいる美形クン達のナマ姿を見たらどうなるのさ!!」
由香ちゃんはからからと笑う。
「自警団が厳しくても、ネットの中は自由なんだね」
何だかほっとしてしまう。
「幾ら自警団言えども、ネットを取り締まることは出来ないさ。人間の手に及ばぬトコロにネット世界はある。師匠もよく言ってたじゃないか。電脳世界は人間ごときがどうこうできるものではないと。敬意を示さないといけないと」
玲くんが愛する0と1の世界。
だから0と1に愛される玲くん。
"愛"で成り立つ関係は、何だか恋人というより、まるで血の通った親子みたいだ。
「イグ、ハン、レン…でしたっけ。彼らの名前」
不意に桜ちゃんが首を傾げて、訊いてくる。
「日本人…ですよね?」
「そりゃあ桐夏の先輩だから、きちんとした日本人だと思うけど?」
「名前の由来は何でしょう?」
「判らないわ、それ。プロダクションと決めたんじゃない? 覚えやすい二文字として」
世の中には、明らかな和顔で英語の芸名を持つ人間もいるくらいだから。
桜ちゃんは何かひっかかるのか、思案顔だった。
「あ、脱線しちゃったね。早く作らなきゃ…」
そう中断してしまった作業に取り掛かろうとした時、突然桜ちゃんがすくりと立ち上がった。
「今、玲様の気が…乱れました」
つやつやほっぺをした顔は強張り、くりくりとした目は鋭く細められていた。