シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

ツインテールを外している桜ちゃんは、紛れもなくあたしがよく見知る本物の桜ちゃんだけれど、桜ちゃんじゃないかのように、凛々しく思えるのは…髪が短いからなのか。


"約束の地(カナン)"から帰ってきてから、桜ちゃんの"男化"は顕著になったように思う。

昔のような甘ったるい言い方をしなくなった。

女装をしていても、より男の子っぽくクールになったと思う。

頼り甲斐が出て来た。


「どういうこと?」


よからぬ予感から遠ざかるように祈りながら、聞いてみれば…桜ちゃんの大きな目は、目に見えぬ何かを追っているように更に細められて。


「命がどうの…というものではありません。しかし…取り乱されています」


あたしは、"気配"だとか"気"だとかは感じないから、具体的にどんな感覚なのかはまるで判らないけれど。


ある種の予感めいた…嫌なもやもやなら、感じているから。

やはりそれに連なる"気"というものを桜ちゃんは感じているらしい。


「何に取り乱しているの? 誰がいるの?」

「当主の気に邪魔されて…当主以外に誰かいるのかよく判りません。何だろう。一段と何か…故意的に撹乱されている気もします」


謎の言葉を明確に掴めていないのは、桜ちゃん自身もそうなのだろう。

そしてその中にいる玲くんが心配だ。


「桜ちゃん、玲くん見てきてよ」


多分桜ちゃんが行かないのは、あたし達のせいだ。

あたしが見に行きたいのは山々だけれど、逆に桜ちゃんを困らすだけだから。


「あたしはちゃんと由香ちゃんとここに居るよ」

「そうだよ、葉山。"引篭もり腐れオタクコンビ"は、ちゃんと腐って引篭もってるからさ」

由香ちゃんもあたしの意を汲み取ってくれた。


「しかし…」


桜ちゃんの顔には迷い。

本当に、玲くんの指示に絶対的な忠臣だ。



そんな時だった。


「おや? パソコンから音?」


警告音のような機械音を発したのは、先程玲くんがプログラムを流した青いパソコン。

由香ちゃんはそれを膝におき、皆で画面を見ると…そこには沢山の白い文字で埋め尽くされていたんだ。

悲鳴のような音を奏でながら。



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