シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
桜ちゃんはドアを少し開けて、部屋の外を覗き込むようにして様子を窺った。
本当は直接見に行きたいんだろうが、やはり玲くんの言葉が枷になっているらしい。
この部屋にあたし達を残して、1人出て行こうとはしない。
「……猫…」
桜ちゃんの唇から漏れ聞こえた言葉。
「猫が…紛れ込んでいるようです。猫を探す声が聞こえてきます。さっきは泥棒、今度は猫…。どうなっているんだ、紫堂は」
ぶちぶちと桜ちゃんの文句も付け加えられて。
「部屋の外がおかしいと玲くんも言ってたけど…停電よりも猫で大騒ぎするのなら、案外普通だったっていうことじゃない?」
「………。言い切れる自信がありません。現に玲様の"気"は…」
ぐぅ~~。
「……いまだ乱れてますし」
………。
桜ちゃんは聞かないフリをして、言葉を続けてくれた。
何ていい子なんでしょう。
ぐぅ~~。
きゅるきゅる~。
………。
もう…無視できないレベルで、前屈みになりながらもじもじしてしまう。
「考えたら…あたし昨日の焼き肉弁当食べたの最後で何も食べてないや。しかも半分以上クマに上げたし…。そう言えば、玲くんレタス好きみたいで、ずっとぱりぱり食べてたんだけれど…今度大根だけじゃなくレタスもプレゼントしてあげないとな」
ぐぅ~~。
……他のことを考えても体は正直に反応する。
「へえ…師匠はベジタリアン? 師匠は隠れ超肉食だから何とも…いやこちらの話。とりあえずその音悲痛すぎる叫び声に聞こえるな。何とかしないといけない妙な切迫感があるし。何か食べに…あ、そういえば…」
由香ちゃんは大切な銀の袋を取り出し、その中に頭を突っ込んで…やがて何かを片手で掴んで寄越した。
それはラップに包まれた……
「きび団子だ。七瀬、アニマルコンビ用以外にも、おにぎりと一緒に放り込んでくれてたみたいなんだ。今まで気づかずにいたけれど、さっきがさがさして見つけたんだ。ほら」
色合いは…口では表現出来ない程の"凄い"ものだけれど、口にいれればおいしくて驚いた。
歯ごたえ、弾力性ばっちり。
適度の甘さがお腹に染み渡る。
「おいちい…。紫茉ちゃん…」
きっとこれは紫茉ちゃんの愛。
じーんと胸に込み上げる想いに、目が潤んできた…時だった。
ベチン。
変な音がしたのは。
「今…なんか音しなかった?」
あたしが聞くと、由香ちゃんが頷いた。
「窓硝子叩くような音だったと思うけれど…見ても何もないね」
「小石…か何かぶつけられたんでしょうか?」
桜ちゃんが窓に赴き、窓を開けずにそのまま外界を見渡した。
「何もありませんね。この場所は2階というより3階に近いし、特に櫂様の部屋周辺は、外部から忍び込まぬよう…周りには電線やらイロイロ罠(トラップ)ありますし、誰かが…というのは少し考え難いですね。風…がそう感じさせたのかもしれません」
風と判断した桜ちゃんが、元の場所に戻ってくる。