シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



「うーん。今日は確かに風強かったから…その関係か」


由香ちゃんが朗らかにそう笑った時。


ベチン。


………。


「風だね」

「そうだね、窓には誰もいないんだし…」


ベチン。

………。

あたし達は目を凝らして窓を見たけれど、別に何が窓に映るというのではなく、暫し見つめていても、何の変化も音もしなかった。


「何だろうね…気味悪い」


そうあたしが目を細めた時、


コンコンコン。


ノックされたドア。


「朝食をお持ちしました」


その声に桜ちゃんが慎重にドアを開けば、現われたのは無表情な大きな女給仕。朝食をワゴンに乗せて、運んできてくれたらしい。

いい匂いが部屋に漂い始め、眠れる腹の虫がまた起きてしまった。

ワゴンに乗せられた料理は、朝から豪勢すぎる…色取り取りの"芸術品"で、嗅覚だけではなく視覚にも斬新な刺激を加えてくる。

今まで紫堂に居たけれど、此処までのものが出たことはない。


玲くんがご馳走を頼んでくれたんだろうか。


朝からお肉とはなんて贅沢!!!

絶対、夕方スーパーで値引きしているものじゃないと思う。


隣を見れば、由香ちゃんの顔も弛んでうっとり顔。

由香ちゃんも実は空腹だったらしい。


1人できび団子食べたことにちょっぴり反省。

あたし達の腹の虫は、揃って仲良く合唱&輪唱を始めた。


桜ちゃんは――


「……?」


何だろう。

桜ちゃんは強張った顔を料理と給仕に向けていて、動かない。

桜ちゃんが動かないから、料理が運ばれてこない。


「桜ちゃん、中に運ぶのお手伝いするよ?」


そう、料理を急かした時。


ベチン。


またもやしつこい不可解な音。


由香ちゃんと即座に窓を見ても、異変は何も目に映らない。

どうして見るコトが出来ないのだろう。


もうこうなりゃ意地でも見てやる!!!


あたし達は目を見開いてじっと見つめた。

目が充血するくらい、じっと。


すると――


ベチン。



「「見えたッッ!!!」」



あたしは由香ちゃんと窓に向かって走った。


見えた。

見えた。



間違いなく、一瞬、窓に映ったアレは――


………。

あれは……。


あたしと由香ちゃんは顔を見合わせて、叫んだ。


「「肉球!!!?」」


そう、動物の持つ…肉球だったんだ。





< 263 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop