シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「うーん。今日は確かに風強かったから…その関係か」
由香ちゃんが朗らかにそう笑った時。
ベチン。
………。
「風だね」
「そうだね、窓には誰もいないんだし…」
ベチン。
………。
あたし達は目を凝らして窓を見たけれど、別に何が窓に映るというのではなく、暫し見つめていても、何の変化も音もしなかった。
「何だろうね…気味悪い」
そうあたしが目を細めた時、
コンコンコン。
ノックされたドア。
「朝食をお持ちしました」
その声に桜ちゃんが慎重にドアを開けば、現われたのは無表情な大きな女給仕。朝食をワゴンに乗せて、運んできてくれたらしい。
いい匂いが部屋に漂い始め、眠れる腹の虫がまた起きてしまった。
ワゴンに乗せられた料理は、朝から豪勢すぎる…色取り取りの"芸術品"で、嗅覚だけではなく視覚にも斬新な刺激を加えてくる。
今まで紫堂に居たけれど、此処までのものが出たことはない。
玲くんがご馳走を頼んでくれたんだろうか。
朝からお肉とはなんて贅沢!!!
絶対、夕方スーパーで値引きしているものじゃないと思う。
隣を見れば、由香ちゃんの顔も弛んでうっとり顔。
由香ちゃんも実は空腹だったらしい。
1人できび団子食べたことにちょっぴり反省。
あたし達の腹の虫は、揃って仲良く合唱&輪唱を始めた。
桜ちゃんは――
「……?」
何だろう。
桜ちゃんは強張った顔を料理と給仕に向けていて、動かない。
桜ちゃんが動かないから、料理が運ばれてこない。
「桜ちゃん、中に運ぶのお手伝いするよ?」
そう、料理を急かした時。
ベチン。
またもやしつこい不可解な音。
由香ちゃんと即座に窓を見ても、異変は何も目に映らない。
どうして見るコトが出来ないのだろう。
もうこうなりゃ意地でも見てやる!!!
あたし達は目を見開いてじっと見つめた。
目が充血するくらい、じっと。
すると――
ベチン。
「「見えたッッ!!!」」
あたしは由香ちゃんと窓に向かって走った。
見えた。
見えた。
間違いなく、一瞬、窓に映ったアレは――
………。
あれは……。
あたしと由香ちゃんは顔を見合わせて、叫んだ。
「「肉球!!!?」」
そう、動物の持つ…肉球だったんだ。