シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


手を広げているのに、何故顔に来る!!!

窒息するではないか!!


必死にしがみついているわけでもない。

実に落ち着き払った…そして慣れた様子で、室内の窓の桟(さん)に片方ずつ足を置き、あたしの肩に片手を置いた。


何だ、何だ。

この猫…一体何を語り出そうとしているんだ?


そして。


猫の癖に猫背ではなく、妙に姿勢がいい二足歩行状態で…


パシッ。

パシッ。


あたしの首筋に…猫パンチ。

何度も何度も猫パンチ。


そこはあたしの病巣だっていうのに、

まるで狙ったかのように猫パンチ。


「何故だ、何故あたしが叩かれる!!! あたし…着地失敗した、あんな無様な姿を披露した可哀相な猫ちゃんを、窓を開けて招き入れてあげ…げふっ」


尻尾の往復ビンタが…頬にもれなくついてきた。


相性が悪いのか。

嫌われているのか。


こんなに白くてふさふさして…

手足が長くてプロポーション抜群の美猫なのに。


気品もあり…雑種ではないことは間違いなく。

だけど悲しいかな、あたしは猫のことは詳しくないから、どんな種類の猫なのか全く判らないんだ。

犬なら種類はそれなりに知ってはいるんだけれど。


何処かの金持ちさんの…高級な飼い猫なんだろうか。

つんとすましたお顔が、気位が高そうな印象を受ける。


「お嬢ちゃまかな? お坊ちゃまかな?」


性別が判るソレを見ようとしたら、


「ぶふっ」


猫パンチが頬にストレートで入った。


いいじゃん、猫なんだし!!!


「ねえ神崎…。もしかしてこの猫ってさ、屋敷で大騒ぎしていたっていう……」


――猫を探す声が聞こえてきます。


その時、猫があたしの頬にパンチを食らわせた反動で身を捻り…


「猫ちゃん、駄目!!!」


部屋に入れ込まれる筈のワゴンに、一目散に飛んで行った。


「あう…っ。ボク達の食料に…」

「ごはん~!!!」


それはもう――

"ひっちゃかめっちゃか"。


食べ物が流動食になるまで、暴れ続けてくれた白猫。


桜ちゃんを含めて、あたし達がどんなに捕まえようとしても、ひらりひらりと身を躱(かわ)し…挙げ句には、長くて白い尻尾をワゴンの一部に絡ませてジャンプしたから、傾いたワゴンが女給仕にぶつかって。


「な!!!!」


驚いたのはその器用さ…というよりも、体を捻って衝撃から逃れようとした…女給仕からずり落ちたカツラで。


男だったんだ。

よく見れば…喉仏もがっつり!!



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