シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「ちょうどよかった~。シチュー作りすぎちゃったんだ。食べていかない? 夕飯…」
「せ、芹霞!!!?」
煌が裏返った声を上げて、芹霞を指させば。
「は!!? あたしが他の誰に見えるのよ? あんた…視力2.5から下がったの?」
不思議そうに首を傾げた。
「ほらほら櫂も。何ぽけっと突っ立ってるの、あんたらしくもない。そこは寒いんだから、風邪ひいちゃう。早く居間にきて? ちょうどお客さんも来てるんだ」
芹霞…。
芹霞がいる。
俺のことを覚えている。
芹霞が…
芹霞が!!!
俺の――…
押し止めていた想いが溢れ出して。
俺の体は自然と動く。
「ちょっ…何抱きついてくるの、櫂、櫂ってば!!!」
慌てる芹霞の声。
「く、苦しい…。嫌なことでもあったの、どうしたの、櫂!!?」
後ろから強く抱きしめた芹霞の体は、柔らかくて温かくて…俺を拒んでいなくて。
不意に…涙が出そうになった。
「ねえ…櫂…?」
"紫堂くん"
「もっと…俺の名前を呼んでくれ…」
堪らず、芹霞に懇願した。
「いつも通り、俺の名前を呼んでくれよ、芹霞」
震えて声にならない声を漏らしながら、芹霞の首筋に顔を埋めた俺は、その嫋やかな身体を力一杯抱く。
芹霞だ。
俺の芹霞だ。
「芹霞……っ」
もう…あんな距離は作らせない。
お前のその感触を、俺の身体に刻み込んでくれ。
俺の身体と溶け合ってくれ。
そして感じとってくれよ。
「櫂、…ちょっ…櫂? どうしたの?」
切なく狂おしいくらいにお前が愛しいことを。
そして受け入れてくれよ。
俺を選んでくれよ。
――紫堂櫂を愛してる!!
あの時のお前に、戻ってくれよ。