シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「櫂…櫂ってば!!!」
何度も何度も名前を呼んでくれ。
それはお前の心に、俺が居る証だから。
お前が俺のことを忘れるなんてありえない。
そうだろう、芹霞?
そう、今までのことは全て悪夢。
俺が一番恐れていたものが夢という形をとっただけ。
今こそが現実――…
「なあ…櫂……」
涙声で煌が俺の肩を叩いた。
「惑わされるな。
それは…本物じゃねえ…」
それは――…
願望という妄執に逃避する心を現実に留める呪文。
「本物に…思い出して貰おうぜ?」
妄念に囚われる俺は、さながらメビウスの環の漂泊者。
裏か表か、現実か夢か。
捻りながら1つに繋いでいるものは、ただ俺の想いのみ。
巡り巡るものが現実なのか妄執なのか…それが判らぬ限りは、自らの想いの環を絶え間なく漂流しつづけるだけ。
判っていただろう?
覚悟を決めたろう?
「櫂、それまで頑張ろうぜ?」
断ち切れ、妄執を。
認識しろ、現実を。
俺は…何の為に此処に居る?
流される為に居るんじゃないだろう?
忘れられていることが――
俺の現実なんだ。
この芹霞は…虚構。
だから俺は――…
「……ああ」
そう答えるのが精一杯で…俺は芹霞から体を離した。