シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「疲れているんだね、櫂。とっておきのシチュー食べていってね。さっきね、久遠がおいしいお肉とクサを持って来てくれて、今こたつでぬくぬくしてるよ。ふふふ、期待しててね。あ、早くお肉入れなきゃ…」
そう笑って、パタパタと先に走って行ってしまった。
虚構とはいえ、その姿を見送るだけでも一抹の寂しさが込み上げてきて。
そして同時に――
芹霞の言葉がもたらしたのは、不安。
どくん。
「櫂…何でウチに久遠が居るよ…?」
「煌…何だか俺、凄く嫌な予感がする」
それは煌も同じだったらしく。
漂う…匂いからして。
この…鼻が曲りそうな匂いは…。
その時だった。
「あははははは~」
どくん。
「櫂…何でウチから、胡散臭い笑いが聞こえるよ?」
「ああ…先刻まで…聞こえていた…幻聴…だといいが」
「ぴぎゃああああああ」
どくん。
「櫂…何でウチから、エイリアンの声するよ?」
「………。台所から…か?」
"お肉"
俺の頭には、夢が思い出されて。
犬と大根。
「櫂…俺さ、中に…入りたくねえんだけれど」
「……同感」
だけど…これは、模倣だ。
進まねば終わらない。
「煌、行くぞ」
「行くのか…?」
「そんな捨てられた子犬の目をするな。行く」
俺は煌の腕を掴んで居間のドアを開けた。