シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
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「玲。手筈は整っている。

禊(みそぎ)を済ませた巫女が、奥の間にいる。

支度を済まして…"儀式"に臨め」


部屋に入るなり――

片膝をついて頭を下げた僕に、当主が言った。


"儀式"、"手筈"。

そんな名称をつけて、僕に押し付けているものに特殊性や意味をもたせようとするなんて。


当主が顎で促したのは、当主の間とも連結している…奥の間と呼ばれる、此処から更に奥にある離れのことで、そこは隠匿したいことがある時に秘密裏に使用されている部屋。


遠目だからよく確認は出来ないけれど…薄く開かれた障子戸から、人間の足が放り出されているように見える。


まさか紫茉ちゃんが、意識ない状態で連れられたとか?


だけど僕には、紫茉ちゃんだという確証が持てるだけの気配を、掴む事は出来なかった。


攪乱させられている。

この当主の、圧倒的な気によって。


「お前が皇城家に選ばれたのは、名誉なことだぞ?」


そう当主は笑うけれど。


言いたいことは同じだろう?


"巫女を抱いて子を成せば、お前の役目は終わる"

"お前の価値など、雄の本能だけだ"



「選ばれたのは僕ではなく…

僕の持つ遺伝子なんでしょう?


僕の遺伝子を電解して、

何が得られたというんです?」



僕など必要とされていない。

必要とされるのは…僕ではなく、僕の器から出た後の、僕の遺伝子だ。


僕は…それを排出するだけのただの肉の器にしか過ぎない。

本当は真っ先に糾弾したいことはあるけれど、"櫂の生存"という事実を悟られ逆手にとられるわけにもいかない。

ならば、まずは――


「僕の心は、テレビで訴えたつもりです。

僕は指1本、触れる気はない。

僕の遺伝子が欲しいのなら、勝手に僕から抜けばいいでしょう。

いつものような実験で!!!」


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