シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


漆黒の色をまとう当主。

櫂と同じ色をしているのは、親子だからと信じたい。


しかし。

あんな非情な血は、櫂は受け継いでいない。

受け継いでいるように思える久涅の父親が当主ではないというのなら、受け継いでいない櫂の父親は、一体誰?


「控えよ、玲。なんという口を利く。

お前は何様のつもりだ? 下手な勘繰りはせず、お前は言われたとおりにすればいいのだ!!

アレの二の舞になりたいか!!」


アレ。


櫂はどんな心地で、"約束の地(カナン)"で聞いていたんだろう。

僕と当主が、櫂の心を深く抉ったのは間違いない。


僕も…当主と同罪だ。


しかし…櫂を勝手に追い詰め見殺しにして、名前という威厳すら奪った…"アレ"呼ばわりは腹が立って仕方が無いんだ。


誰のおかげで紫堂が拡大出来たと思っている。


櫂がどれ程不可能のことを可能にして、どれだけ期待以上の成果を出したと思っている。


そこに親子としての温かな交流なくとも、紫堂は…櫂という後継のおかげで、未来に光を感じることが出来たはずなのに。


櫂を疎んじたのは、櫂の力への嫉妬だろう。

それとも他に理由があるのか?


「アレのように無様な姿晒したくないのなら、口を慎め!!!」


僕はカッとなった。

冷静になどいられなかった。



「アレではない、櫂だッッ!!

櫂は無様などではないッッ!!


誰もが畏怖して賞賛する――

『気高き獅子』だ!!!」



思わずそう叫ぶと、当主から唸り声が聞こえた。

当主に反論したのは、多分これが初めて。

それだけに、当主の憤りも強いだろう。



当主。

貴方はやりすぎた。


僕だって人間だ。

大切な者が目の前で滅んでいく様を2度も見せられて、おとなしくなんて出来ない。


もしも僕にとって、その"儀式"とやらが弱点となるのなら。

同時に僕は、その…僕でしかなしえない"弱点"を武器にすることが出来る。


シンデレラが成り上がったのが、奇跡という魔法のおかげだというのなら。


芹霞にかけた魔法を解くことが出来なかった僕にも、まだかけられた魔法は続いている。


夢の時間は続いているというのなら。


僕は、成り上がったまま――

この話を壊してやる。


この魔法で、変えてやる。

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