シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
その時――だった。
僕のものでも当主のものでもない…男の笑い声が聞こえたのは。
「申し訳ありませぬ。玲は決して嫌がっているのではなく…」
そう当主が頭を下げたのは…
続き間から静かに現れた男。
「よいよい、紫堂当主。
好きな女子(おなご)がいるのなら、そうなるのは必須。
血気盛んで、行く末が楽しみではないか」
誰だ?
聞いたことのない柔和な声音だけど…
何故こんなに鳥肌が立つんだ?
「………?」
長い髪を1つにねじるようにして前に垂らせた――
紫の…袈裟のような、法衣を身に着けた男。
僧侶?
男は片膝をつくようにして、僕と同じ目線にあわせた。
凛々しいというより、温和に整った…女顔。
「ひと時の戯れということで、
最愛の"彼女"には内緒にして頂こうか。
何、子を成しても認知などしなくてもよい。
そなたの経歴は何1つ汚れぬ。
そなたが黙っている限り」
男は、僕に笑いかけた。
ぶわり。
僕の全身の毛穴が開く心地がした。
邪なる…悍(おぞ)ましさを感じたから。
僕の防御本能が警告を発した。
推し量れない。
久涅にも通じる…走査を無効化されたような心地。
感じるのはただ、悍しさのみ。
この男は一体…。
「お初にお目にかかる。
我は――
皇城家当主、皇城雄黄だ。
お見知りおきを、
紫堂次期当主、紫堂玲殿――」
皇城雄黄。
翠の実兄。
神童と讃えられていた皇城の実質№1。
その笑みは完成された美しさを持つものなれど…僕にはとてつもなく歪んで目に映った。