シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
すると雄黄が笑い出す。
「愛する娘と始めたがっている男が、死を選ぶか」
笑う。
笑う。
何処までも。
選べるはずはないと笑い続ける。
「……始められないのなら。
死んだ方がいい。
僕が…死んでもいいんですか?」
それは僕の――賭けだった。
「僕が死ねば、遺伝子は死ぬ。
それが嫌なら――」
「脅しているつもりか、我らを」
雄黄の目は冷ややかで。
「どうとでも。
僕は人としての愛を貫きます」
「ほう? それはそれは美徳だが、それによって愛する女がその後どうなるか、それは何も考えておらぬと?」
見透かしているつもりか。
僕は…芹霞を守り、これからを始める為に…今此処で中途半端な状態で、死にたくはないということに。
だからこそ――
「そこまで愛を貫いたとして、これからどうするのだ? そなたが好きな女と子でも成すか? そして過去の女と同様、狂い死させ…我が子を殺すつもりか」
くつくつ、くつくつ。
「他人の命を奪ってまで、
"自分"を貫きたいか」
僕は唇を噛んだ。
当主が言った。
「巫女を抱け。子を成せ。
すれば、全て不問にしてやる。
そこから子供も殺さずにいられる術もみつかれば、お前はあの娘と普通に"恋愛"が出来るのだぞ?」
それは悪魔の誘惑のような言葉だったけれど。
判っていない。
僕は未来の為に、今を捨てたくない。
櫂を傷つけてまで芹霞と始めたい今を、疎かに…無駄にしたくない。
何より、裏切りたくは無いんだ。
僕は、櫂だけではなく…助けを求めていただろう子供や"彼女達"を裏切ったというのなら。
今度こそ、何が何でも裏切ってはいけない。
此処で流されては…罪の因果律は回り続ける。
それだけはしては駄目だ。
どこかで食い止めないといけないんだ。
「これが…見えませんか?」
僕は…刀の光をちらつかせた。
「僕の決心は変わりません」
「ならば死んで見せよ」
当主が笑った。
「その覚悟があるならば」