シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

逃亡 桜Side

 桜Side
****************


元より、当主相手に勝てるなど思っていない。

無論、皇城雄黄にでさえ。


私がしているのはただの時間稼ぎ。


外側から奥の間に入り、七瀬紫茉を捕獲予定の百合絵さんと、当主の部屋より玲様を連れて奥の間に至る芹霞さん達が合流するまで。

彼女達が奥の間より、紫堂本家の外に逃げ切れるまで。

それまでの時間稼ぎをしているんだ。

いつもなら橙色の駄犬と組むことが多い私にとって、今の相棒は白色の猫だというのが何とも複雑な心地がしたけれど。

戦力となるのなら、ぐだぐだ言ってられない。


そんな時、奥の間より遠坂由香や芹霞さんの悲鳴が聞こえて。

そして玲様の声が聞こえたんだ。


「僕を叩き殺せッッ!!!」


一体…何が起きているんだ、あの部屋で!!!


気がそれた瞬間に、当主の手刀が私の目に飛び込んできて。


目をやられる!!


そんな時、当主の手を掴んだのは――


「此処は俺が引き受ける。早く行け!!!」


赤い外套、赤い蓮のバッチをつけた…葉山朱貴。


――紫茉を頼む。


彼が"紅皇"として紫堂に出現したことを知ったのは、少し前の事。


「ごついメイドに後は頼んでいる。お前達はあのメイドに従え。此処は俺が納める!! クオン、お前は俺の補佐をしろ!!!」

「ニャアアン」」


朱貴がそう言った。戸惑う私に…


「五皇の力は、お前が思っている以上の権威がある。俺のことなら案じるな。後で…俺も行く」


私はお辞儀をして朱貴に背を向けた。


「朱貴…大三位はどうした!!!?」


後方で、威嚇するような恫喝するような声が響き、場がびりびりと震え…何処かの瓦礫が崩れる音がして、心配になった私は振り返った。


これは…雄黄の声。

この荒げた口調は、憎悪とはまた違う…憤怒により近い。

朱貴と知り合いらしいが…この口調はから思えば好意的ではなく。


「お前、立場を判っておるのかッッ!!!!?」


びりびりびり。


「我に逆らうかッッ!!!!」


2人の関係は主従ではない。


"立場"


痛めつけるのが当然といった、周涅の態度にも通ずる…


それはまるで――


奴隷のようだと、

私は…そう思った。


< 321 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop