シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「葉山、行けッッ!!!」
雄黄を無視するように朱貴は怒鳴った。
「お前が守るべき者は、俺じゃない。判断を誤るなッ!!!
俺のことはいい。行けッッ!!」
"紫茉を頼む"
濃灰色の瞳で訴えるものは切実で。
"今度こそ、今度こそは…"
そんな悲痛な想いを受けとった私は、頷いて走った。
「五皇の力は皇城には及ばなくとも…紫堂当主。俺には、貴方を抑える力がある。紫堂を抑えられれば…結果、皇城も止まらざるを得ない。
俺が此処に来たのは…1人だけだと思うか?
それが周涅が此処に来ない理由だ」
そんな朱貴の声が背に聞こえた。
内容が気になったけれど…しかし私は走った。
奥の間に飛び込んだ時、目に入ったものは衝撃的な光景だった。
「あわわわ、師匠、師匠!!!」
そこには玲様が芹霞さんの上に馬乗りになって、その両手を力で押さえ込んで組み敷いていて、芹霞さんの露になった首筋を蹂躙しては、声を上げて押し留め…苦痛に歪んだ顔をしきりに横に振っていた。
不可抗力的なことに、抵抗しているような玲様は、いつにない獰猛さを身体に漂わせて、私は思わず目を瞠(みは)った。
遠坂由香が尻餅をついているのは、玲様に払われたのだろうか。
いつもと違う。
そう感じたのは――その褐色の瞳。
焦点が合っていない。
それは馬鹿犬が盛っているような…情欲にぎらついた目で。
柔和な玲様に似つかわしくない、"雄"の本能のようなもの。
優しさではなく烈しさを見せつける。
汗が滲んだ濡れた髪を振り乱しながら、壮絶な艶を迸(ほとばし)らせている玲様は、理性との葛藤に煩悶しているように思えた。
噛みしめている唇からは血が流れ。
それでもその目の光を見る限りでは、玲様は激しく芹霞さんを求められている。自らの欲の命ずるままに。
私は…その様に魅入られたようにすぐ動くことが出来なくて。
しかし微かに甘ったるい匂いを捉えた私は、玲様の変貌の訳を悟る。
「媚薬か…!!?」
玲様は媚薬を飲まされていたのか。