シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
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私は少し前の事を思い出す。


――皆でこの屋敷を思い切り動き回れるいい口実、ボク思いついたんだ!!


一応と言いながら…遠坂由香は銀の袋を再びあの唐草模様の風呂敷に包んで背負い、準備だけはと言いながら…芹霞さんもピンク色の鞄を肩に提げて。


もう…如何にも、紫堂から脱出する気満々の格好で、棒読みで叫ぶ。


――泥棒猫~!!!

――食事を返せ~!!


私は…この2人は"大根役者"だと確信した。


荷物を纏めて次の行動準備をするくらい、とりわけ玲様の危機を察知する能力はあったとしても…彼女達は基本、演技が下手らしい。


それが判っていないのは、本人達だけで…


――泥棒猫は…こっちかな~

――いや、こっちに逃げたぞ~? 待て~。


わざとらしい声音の、棒読み口調。


顔には、"妙案してやったり"…とでも言いたげな、名女優さながらの自信めいた満面の笑み。


クオンを暴れさせて…それを"仕方が無く"捕まえるという、わざとらしいくらいの古典的スタイルで、堂々と屋敷を駆け回るはいいにしても…あまりに不自然過ぎる私達。


荷物を背負い、クオンではなく玲様を捜そうと…あさっての方向をキョロキョロ。

これなら…物色している泥棒は、私達の方だ。


それでも進んで来れたのは、2人の演技"達者"のおかげではまるでなくて…咎めるような給仕達が一切出てこなかったことによる。


それまでバタバタ騒がしかった屋敷の中に、やはり思った通り…人が居る気配がなくて。


――こんなこと…しなくてもよかったんじゃ?


そう彼女達が苦笑しあった時だった。


先頭を走っていたクオンが急に止り、毛を逆立てて一点を威嚇し始めたのは。


――うわ、何、あれは何だ!!?


遠坂由香の声。


――生ける屍…じゃない、メイドさん達だッッ!!!


更には…人影がなかった紫堂の屋敷に、突如"生ける屍"のような…ぎこちない動きをしたメイド達が一斉に現われた。

その服は血に塗れ裂かれ…その肉体は囓り取られたような歪さを見せつけた。


そして…


――げえええッッ!!!?


――蛆!!!? 何で蛆!!!?


蛆を吐いて、当人の輪郭を崩していったのだ。

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