シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


――葉山、抑えろ!!


遠坂由香に腕を取られて、私は…ただ目で久涅を威嚇する。

しかし久涅の目には私はないらしく…芹霞さんだけを見ていた。


それは屈辱なれど…芹霞さんの反応を窺うような…少し怯えたような色が顔に浮かんでいたと思ったのは、気のせいだろうか。


簡単に爆破できる男が、怯えなどあるはずはない。

こんな男が…五皇とは思えない。

何かの間違いに決まっている!!!


芹霞さんは、まっすぐに久涅を見据えると…静かに歩き出した。


私がそれを引き留めようとする寸前で、


パシンッッ!!


久涅の頬を平手打ちをしたんだ。



――ひとでなし。


怒りのような哀しみのような、失望のような絶望のような。


蔑んだものに近い、静かな静かなひとこと。


私は、久涅が逆上してくると思って構えたけれど…久涅はぶたれた頬に手を添え俯いた。


深く傷ついたというような表情をして、弱々しく項垂れたんだ。


どうしてそんな顔をするんだ?


櫂様と同じ顔をして。

櫂様を何処までも追い詰めたくせに…何故被害者ぶる!!?


私は…益々怒りを感じた。


芹霞さんは怒り狂って、騒いだりはしなかった。


"ひとでなし"


そのひとことに、こめられた彼女の感情の全て。


だからこそ、その言葉は重いのだ。

まるで言霊の如く。


ただの蔑みには終わらない。


思い返せば…芹霞さんは、櫂様のことを忘れてしまってから、久涅に対して好意的な態度をちらちらと見せていたように思える。


それは玲様も言っていたことがある。


――その許容度は…まるで櫂と逆転だね。


そして反対に、芹霞さんの…櫂様への拒み様は、まるでかつての久涅に向けていたようなもので。


恐らくは…大切に思われるものを妨害する者として、受け付けようとしないのだろうけれど。


久涅は…芹霞さんを求めている。

それは過去からも明らかだ。

櫂様から奪い取りたがっていた。


だとすれば…櫂様を忘れられているこの間は、彼にとってはチャンスであったのに、彼は芹霞さんをモノにする行動を起こす処か、彼女の信用を奪うことをしでかした。


彼女を失望させていると判っていて、それに惑った形で今訪れたのならば、こうした事態になると見越していても…それでもしなければならなかった"約束の地(カナン)"爆破は、彼にとってどんな意味があったのだろうか。


見ている限りにおいては、彼の意思ではない…そんな雰囲気にも受け取れるが、久涅のことだから…何処まで信用おけるか判ったモノではない。


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