シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

とにかく芹霞さんは…静かに怒っている。

感情を露にしない、感情を越えた怒り。


彼女のこうした怒りは…初めて見るかも知れない。

ぞくりとする程の…威圧感すら感じられるのだ。

それくらい、彼女にとっての久涅という存在は…失墜したのだろう。


今までのようにただ感情をぶつけるのなら、まだ宥(なだ)め具合で信用回復も出来るかもしれないが、ここまで静かだと、それも絶望的のように思える。


"ひとでなし"


それは仲間が危機に陥ったという理由からか、それとも…櫂様が危険に陥ったという理由からなのか…判別は出来なかった。


むしろ、久涅を目の前に…こうした態度で接するのが意外なくらいで。


紫堂に戻って芹霞さんが目覚めてから、彼女は…久涅が黒皇という話題を出した時でさえも、彼に対する悪感情を出さなかったから、正直…芹霞さんは何処まで爆破の事実を重く受け止めているのか、私には判っていなかった。



だけど今、安心した。

芹霞さんは…芹霞さんだと。


芹霞さんは、それ以上久涅に何も言わない。


その沈黙は研ぎ澄まされた刃のように…久涅に突きつけられていることだろう。


久涅に…良心というものがあれば、の話。


何をしに此処に現われた?

被害者ぶるな。


櫂様はもっと苦しまれたのだ。


そして巻き込まれた者達。


煌を初めとして、あの土地でしか生き抜けぬ者達を…その安住の地を破壊したのだから、それ相応の報いを受けるがいい。


そう思っているのは…私だけではないはずだ。


久涅は項垂れたまま動かない。

私達の視線にも気づいているだろうに…それでも沈んだまま。


あの…強気でいた久涅の姿は、何処にもいない。


演技か?

本心か?


櫂様の姿で…おかしな真似をするんじゃない!!!


そんな久涅に、芹霞さんはふいと顔を背けて…周涅と朱貴の戦いを眺めていた。


私もまた…つられるようにそちらを眺めた。


周涅と朱貴が交戦続け、それにクオンが参戦している。


周涅対朱貴とクオン。


クオンは…あの周涅の喉元に噛み付いた。


あの周涅を傷つけられるなど…なんて凄まじい俊敏さと攻撃性。


本当に猫なんだろうか。


周涅が舌打ちしてクオンを叩き飛ばし、少し足を縺(もつ)れさせた。


そんな最中、殺気だって現われたのは集団。


それは――

紫堂の警護団だった。

< 328 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop