シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
そして朱貴が叫んだんだ。
――葉山!!! お前達で離れの当主の部屋に…紫堂玲を救いに行け!!! 紫堂玲が危険だ!! クオン!!!
クオンが名前だと…何故知っているのだろうか。
芹霞さん以外には懐かないクオンが、ひらりと朱貴の肩に飛び乗り、また長く鳴いた。
何処かで…パリーンと、硝子が壊れるような音がした。
この音は聞き覚えがある。
何処でだ?
これは…ああ、初めて黄幡会に行った時。
幻覚で悩まされていた私達に、皇城翠の式神が…幻覚を壊した時の音だ。
え?
だとしたら…あれと同じような幻覚が、紫堂で起きているというのか!!?
――お前達で離れに乗り込め!! クオン、お前が要だ。行け!!!
ニャアと鳴いたクオンは、朱貴の肩から私達の前にひらりと降り立ち…こちらを向いてニャアと再び鳴いた。
まるで、ついてこいと言っているように。
――そこのメイドは、外から紫茉を連れて合流しろ!!
そして、今まで私が立ち入ることがなかった、紫堂当主の離れにて。
驚いたのは私がそこに足を踏み込められたということよりも、先客の会話。
――僕は…彼女達を妊娠させたりは!!!
そこで、いきなり耳にした単語は衝撃的で。
そして誰より衝撃を受けていたのは、恐らく玲様自身。
玲様の繊細な心を揺るがすには十分なもので。
当主が語るものは…まるで他人事のように、私には現実味がないもののように希薄に思えた。
到底、信じられるものではなかった。
これは本当の話だろうか。
私の中の猜疑心が高まった。
玲様はこの雰囲気に飲まれ、そうだと信じきっている。
本当に…真実なんだろうか。
知らぬ間に子供がいた。
知らぬ間に、子供も元恋人も利用されて死んでいた。
その動揺につけこんで、玲様に七瀬紫茉を抱かせたいのか、そこまでして。
もし当主の言葉が真実ならぱ――。
私と遠坂由香は、芹霞さんの顔を見つめた。
芹霞さんは泣きそうな顔で、俯いていた。