シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

もし当主の言葉が真実ならぱ――。


玲様が知らぬ処で…こんな状況になっていたのだ。

玲様の不始末ではないし、これは不可抗力事態だけれど。


しかし芹霞さんが玲様を慕っているのであれば。

玲様に"清く正しく美しく"を願っているのであれば。


そうした"行為"はあったという玲様の隠しきれない過去が、現実感を伴えば、芹霞さんにしてみれば衝撃的すぎるはずで。


尚もそこに子供が居たとなれば、これから始めようとしていた"恋人"の大スキャンダルであり。


当主の言葉が事実であれ偽りであれ、玲様という像を…もしも芹霞さんが"潔癖"に作っていたら。


ひとたび頭に過ぎったものは拒否反応のような不安にも似た嫌悪となり、そしてその為に玲様を避けてしまう恐れがあった。


相手があの発情犬だったら、此処までの懸念はない。


とうとう子供を作ったと、芹霞さんが怒り狂って取っ組み合いの喧嘩でもして、冷戦期間はあったとしても、相手に謝罪に行かせるか責任を取らせるかした後に…結局2人の仲が終わる気はしないのだ。


しかし…玲様に対しては、予測がつかない。


今まで、煌や櫂様程の素の自分をぶつけてくる場面を見ていないが故に、すっと静かに身を引いてしまいそうな気もするんだ。


もし、芹霞さんが玲様を避けるような事態にでもなれば…


恐らく玲様は――

崩れ落ちる。


櫂様を傷つけ芹霞さんも傷つけ…それで平気でいられる玲様ではない。

子供云々のこと以上に、玲様の心が壊れてしまう。


玲様の過去は変えられない。


だから芹霞さんが割り切るしかないのだ。

これはもう…芹霞さんの玲様に対する信用問題なのだ。


何処まで芹霞さんは、玲様という存在を望んでいるのか。

何処まで玲様に対しての感情があるのか。


それにかかっている。


今、此処には頼りとなるべき櫂様は居ない。


櫂様なら、必ず玲様を引き上げるだろう。

芹霞さんを説得すらするだろうと思う。

玲様を壊さないように。


例え恋敵だとはいえ、櫂様とはそんな方だ。


しかし。


――玲くんは玲くん。あたしは…玲くんを苦しめるものを許したくない。


上げた顔は怒りに満ちていて。


ああ、私たちが何も言わずとも、芹霞さんは玲様を理解してくれる。


芹霞さんも、玲様を見捨てない。


玲様、玲様!!!


私はここから叫んで、玲様に知らせたい気になった。


玲様、大丈夫です、芹霞さんは変わっていません!!

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