シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
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強力な結界が張り巡らされた紫堂本家の中で、無人さを奇異と思っていた最中、一斉に出現を始めたかつての紫堂の者達。


気配悟られずして、その変わり果てた様の意味する処は何か。


外部から…誰が忍んだのか。

単数か、複数か。


何1つ判らずして、奇妙すぎる舞台となった紫堂を後にする。


当主に刃向かったことにより、私は警護団長を辞めねばならぬだろう。


しかし私は悔いはない。


私はあの当主に仕えたいわけではない。

そこが紫堂だろうとそうでなかろうと、櫂様や玲様が居る処であるならば何処でも良い。

紫堂の為に生きよと育ったけれど、私は紫堂には執着はない。

むしろ、櫂様や玲様を追い詰めた当主が指揮する家など、私は仕えたくない。


「団長~!!!」


周涅や久涅の姿なく、難なく外に出れば、青いワゴン車が停まっており…その前で百合絵さんが手を上げ(肉を弾ませて)叫んでいた。


「手筈はついています。乗って下さい。中には紫茉さんもいます。私が運転しますから、さあどうぞ」


「百合絵さん…運転出来るんですか…」

「??? 成人してますから」


いや、そういう意味ではなく…。

巨漢が操作出来る運転席があるのかと、そちらを心配したのだけれど。


ワゴンの扉を開けると、椅子は取り払われ…巫女装束の七瀬紫茉が横たわっていた。


「紫茉ちゃん!!? 大丈夫!!?」


芹霞さんが七瀬紫茉の肩を軽く揺さぶると…微かに声がした気がした。


ドスン。

運転席が大きく揺れ、芹霞さんと遠坂由香が転がりそうになった。


「紫茉さんは大丈夫です。あの赤い方から渡された薬を飲ませました。いずれ目覚められるかと…」


百合絵さんの声。

彼女が運転席に座ったのか。


七瀬紫茉の横に玲様を横たえる。


「美男美女だね…」


芹霞さんがそう苦笑したら、クオンが興味ないような欠伸をして、芹霞さんの首筋に丸まって寝始めたようだ。


「お疲れ…クオン…」


芹霞さんはそう言うと、クオンのふさふさとした毛並を梳くように、静かに静かに手で撫でた。

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