シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
ブオオオオ。
車は動き出す。
「笑っちゃいけないんだけれどさ、笑いを誘う…師匠の顔だよな。どこまで腫れあがったんだろう。口の中は切れてないのかな…」
「ゆ、ゆゆゆ由香ちゃん。勝手に弄ったらいけないよ? 安静、安静…」
「どうしたんだい、神崎。そんなに汗掻いて。そんなに暑いか、此処…」
「あ、暑くはないけど…」
何だろう、芹霞さんのこの慌て様は。
「あのさ…」
遠坂由香が、凄く嫌そうな声を出した。
「何でこの車…青いんだろうね…」
一瞬――
私たちの動きが止まった。
そういえば…この車は外装も青かった。
車内も…青だらけだ。
「ゆ、百合絵さん…」
私は運転席に居る百合絵さんに尋ねた
――俺が此処に来たのは…1人だけだと思うか?
「紫堂に…青い人は来ましたか?」
ぷふー。
息が抜けたような音がした。
どうやら…百合絵さんの考えている音らしい。
「赤い方しか見かけませんでしたが、変な声は聞こえたようか気が」
「変な声って…まさか…」
遠坂由香が顔を引き攣らせて聞けば、
「"あはははは~"、です。気のせいかもしれませんけれど…」
やっぱり来ていたのか。
「では、その"あはははは~"の人が来たから、周涅は…」
「ああ…団長が行かれてから、あの赤銅色の男のその後は判りません。私はあの後直ぐ、別の道から奥の間に行きましたから」
周涅がどうなったのか、百合絵さんは見ていないのか。
「私が紫茉さん連れて外に出ていた時は、赤銅の男は見ませんでしたね。早々に帰ったのか、裏口からでも逃げ帰ったのでは…」
裏口…から帰るだろうか、あの男は。
何より強さを誇る男が、こそこそと逃げ帰るような風体を晒すのは、矜持が許さないように思える。
というより、帰るという行為自体が似つかわしくない。
――それが周涅が此処に来ない理由だ。
周涅は氷皇をかなり嫌っていたのは覚えている。
だから…帰ったのか?
あっさり?