シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



眩暈がするほど…芹霞さんが眩しくて。

眩しすぎて…。


そして…私を見るその黒い瞳が綺麗すぎて。


縛られる。

囚われる。


…欲しくなる。


ふらりと…体が吸い寄せられるように動きそうになった時、


"裏切りたくない"


不意に玲様の声が心に流れた。


そして視線。

冷たい…心に突き刺さるような瑠璃色の瞳。


芹霞さんの首に居るクオンが、私を見ていた。


まるで――

私の中の燻る想いを見透かしたかのように。

……詰るように。


「???? どうしたの、桜ちゃん」


私は…唇を噛んで、現実を思い返した。


芹霞さんは…私が容易に触れていい女性ではない。


そう戒めれば戒める程、胸が軋んだ音をたてるけれど。


「何でも…ありません。

こちらこそ、よろしくお願いします」


そう私が頭を下げてからクオンを見た時、クオンは目を瞑って眠っていた。


何もなかったように。


「ん……」


その時、ベッドで眠る玲様の苦しげな声が聞こえて、慌ててベッドを見た。


苦悶の表情をした玲様が身動(みじろ)ぎしている。


腫れた頬が痛むのだろうか。

何処か口の中を切られてしまったのか、それとも…手が痛むのか。

別の処を怪我されているのだろうか。


よく観察しようとしたら、芹霞さんに止められた。


「さ、ささ桜ちゃん。玲くんのほっぺは…あたしやるから。あたし叩いてこんなになっちゃったから、あたし…ちゃんと見るから」


さっきから…何でそんなに焦っているのだろう。

良心の呵責?


「ゆ、百合絵さんが運んだ、し、紫茉ちゃんの方、見てくれる? あたし、玲くんの看病したいの。むしろ、させて欲しい!!!」


必死の懇願だった。


芹霞さんは、玲様の恋人なんだ。

私が反対する理由もない。


それは…当然のことで。

私が…憂う心になるのは筋違い。


「では…よろしくお願いします」


私が頷いて出て行こうとすると、


「桜ちゃん!!! あのね…1つお願いしていい?」

「はい?」


私は足を止めて振り返る。



「あのね…


瞬間接着剤、欲しいの」



瞬間…接着剤?



「あ、はい、判りました。近くにコンビニありますから買ってきます。が…それで一体何を?」


不思議に思って尋ねる私に、芹霞さんはぎこちなく笑った。


「し、修繕を…。ちょっと…壊しちゃったもの、あるから…早いうちに…あははははは」


何だろう。

まあいい。


このマンションには百合絵さんがいるから、誰かが襲ってきても…一時くらいは凌いで貰える。


それにクオンもいることだ。


私は百合絵さんにその旨を伝え、コンビニに走った。





◇◇◇


《Upper World 003》
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