シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
見えない。
お口の奥が良く見えない。
また視線を感じた。
ゆらゆらと揺れてる、鳶色の瞳。
何だかとろりとしている。
一瞬、S.S.Aでのべたべた&ちゅっちゅ&とろりを思い出したけれど、今まで玲くん寝ていたんだし、きっとあたしの自意識過剰だ。
もしかして熱が出てきたんだろうか。
だけど触っても…おでこより頬のほうが熱い。
じゃあ…この"とろり"は、まだ眠たいだけかもしれない。
「あ、玲くん…寝てていいよ?」
またにっこりと笑ったら、玲くんの手が伸びた。
そしてあたしの頬をなでなでし始めて。
これは…頬の異常を、あたしに訴えているのだろうか。
暗黙に…詰られているのだろうか。
あたしは固まって、身動きできずにいたら。
ぺろ。
玲くんが突然舐めた。
あたしの下唇を。
「△○×◇※!!!!!?」
そして頬に伸ばした手を後頭部に滑らせ、あたしを更に近くに傾けると。
ちゅ。
「甘いね…。おいしい」
啄ばむような…そんな軽いキスをされた。
しかもその後二度。
そして鎖骨付近にあたしを押し付け、震えるような長い息をした後、ぴきんと固まるあたしに下から抱きつくようにして、ぷっくり玲くんは呟いた。
「夢は…いいな…。
何でもありで…何でも許される…。
僕はまだ…芹霞にも触れられる」
それは消え入りそうな声で。
あたしは――
寝ぼけたままの玲くんが、現実だとわからない程…かなり心に傷と衝撃を受けていることを感じた。
「ああ…僕の罪も…
僕の気狂いの血も…
全て夢だったらいいのに…」
これは夢だと言っていたのに、それでもまだ夢を望みながら、辛い現実を認識しているという…そんな矛盾を自分で判っていない玲くんは、やはりまだ微睡(まどろ)んでいて、頭がしっかりしていないんだろう。
「嬉しかったな…あの夢。
全てを知っている芹霞が…僕を見捨てず…幸せにしてくれるなんて、当主に啖呵切ってさ。
凄く格好いいんだ。また惚れ直しちゃったくらい。何でこう…惚れさせるのが上手い女の子なんだろうね…」
照れてしまって、頬が熱く紅潮してくる。
聞かれていたらしい。
しかし玲くん…今現実世界で一緒に居るのがあたしだとよく認識していないのなら、誰に言ってるつもりなんだろう。
人にも聞かれたくないし、独り言でも…恥ずかしいや。