シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「現実だったらありえないよ。芹霞は僕を避けるだろう。
気持ち悪いよね。最低だよね。どの面下げて…綺麗で可愛い芹霞に、『君だけがずっと好きだった』なんて言えるんだろう。だから過去の話は隠してきたのに。
その上、僕…芹霞を襲おうとしたんだ。欲しくて欲しくてたまらなかった…なんていうのは言い訳だ。僕は…"男"として、その力で芹霞を穢そうとした…。
"約束の地(カナン)"で一度、僕は芹霞を組み敷いた。その僕に芹霞はまたチャンスをくれたけど…二度目はないだろう」
"約束の地(カナン)"?
そんなこと…あったっけ?
あたしはお試ししてただけだよ?
第一何で玲くんがそんなこと…。
どくん。
思い出すなと、心臓が脈打った。
………。
玲くんは意識朦朧として、意識が変に混濁しているんだろう。
多分、そうだ。
「ああ…芹霞に嫌われた。怖がらせてしまって…受けいれてなんて貰えない…。もう…駄目だ。折角…折角これからだったのに…」
嘆きの声は、完全あたしの存在無視だ。
玲くん、目尻光っているんですけど。
泣いちゃってるの!!?
「玲くん、あの…。受け入れているんですけれど。もしもし、聞いていますか、玲くん…?」
玲くんは涙が伝う目の上に片腕を置いて、更に呟いた。
「はあ…。この僕が父親か…。僕は酷い男だ。見殺しにした上…どんな形であれ、ひとたび命として形成されたものに対して、父親としての感動がないんだ。あるのはただ…人としての罪悪感だけ。
僕はあの時、彼女達を確かに好きだと思った。愛したつもりだった。それなのに…結果、突き離すようにして終わった僕を、そこまで求めてくれていた彼女達が…気の毒で。愛情よりも同情しかない僕が…あまりにも非情すぎて、自分自身が許せなくなる」
あたしは…何と言っていいか判らなかった。
「もし芹霞との間の子供だったら。僕は違うんだろう。子供が出来れば歓喜に涙し、死んだとならば発狂する。利用されたと判ったら、僕は鬼となって報復するだろう。
違うんだ。彼女達と…芹霞への想いは。
その差が…僕という人間性が如何に自分勝手で最低なのかを物語っている。
そう思えばこそ、こんなこと…芹霞にはいえないよ。軽蔑される…」
知らぬ処で被害者となっていたはずの玲くんは…自分を最低の悪者にして追い詰めることで、責任を取りたがっている。
必要以上に罪を背負おうとしている。
そう思った。