シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「ごめんなさ「ああ、またご都合主義の凄くいい夢に突入しているみたいだ。痛みすら感じる現実みたいなリアルな夢。

僕の…最低な部分をひっくるめて…芹霞に理解された気になってきた。

芹霞から…希望を貰った気になってきた。嫌われていない気がしてきた。こんな…最低すぎる僕なのに…。いい夢だね…何か幸せ…」


「玲くん、夢じゃないってば!! 現実だからね?」


「ふふふ、嬉しいな…本当に嬉しい夢…。もしかしてあの世かな。僕は芹霞を傷つけずにすんだのかな」


「玲くんの自制心であたしは傷ついてないし、あの世なんて縁起でもない。あたしが玲くんを殺させるわけないでしょう!!」


「ふふふ…」


駄目だ。

玲くん…トリップ中。


とろりとしたお顔のまま、寝惚けた玲くんはかなり手強い。


「凄く…嬉しくて、愛しくて…夢の世界なのに…泣きそうになってきたよ」


玲くん、もう泣いていたんだけど…。

そんなツッコミよりも、現実世界のあたしの方が泣きそうだ。


いやいや、負けるなあたし!!!


そう意気込んでいたら、玲くんがあたしの腰を引き寄せた。


「現実ならば、こうやって芹霞を抱きしめることは叶わないだろうな。きっと芹霞は嫌がって逃げる気がする…」


そして不意に玲くんの体が、悲しんでいるようにふるふると震えて。


「この夢が…ずっと続けばいいのに…」


「あの…だから現実なんだってば…。って、玲くん聞いてないでしょ。玲くん、玲くん!! 今、玲くんがぎゅうしているのは、現実のあたしなんですけれど。嫌がってません、嫌ってません!! 避けもしないし、逃げもしないし!! あたし変わらず玲くん大好きだからね!!?

とにかくその勘違いと思い違いから戻ってきてよ!! 無駄に落ち込まないで!!」


とんとん、唯一動く足で、玲くんの足を叩いてみたけれど。


「現実の芹霞が僕の傍に居るなんて…僕をまだ大好きと言ってくれるなんて…

猫が刀持って戦うくらい…ありえない」


………。


クオンのせいか。

あいつのせいで、玲くんは此処まで頑(かたく)なに夢だと思いこんでいるのか。


「お寝ボケ玲くん。あたし一生懸命訴えているのに、夢にされてしまうのは凄く凄く悲しいんだけれど」

「ああ…泣いて訴える…そんな可愛い芹霞を離したくないな。僕…離れたくないな…」


あたしの言葉なんてまるで聞いちゃいない玲くんは、ふうっと溜息をついた。


思い込みって…凄いものだ。

どうしたらいいんだろう。


………。

まず…玲くんを起こそうか。


そう思っていた時。



「芹霞…」


あたしの耳元で、苦しそうな切なそうな…そんな吐息混じりにあたしの名前を呼び、あたしがぞくりとしたものを感じて身を竦めた途端…

そのままくるりと反転し、あたしは玲くんを見上げる体勢になっていた。
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