シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「僕を馬鹿にするな!!」
「するな!!」
「するんじゃない!!」
「痛え!!! お前凶器みてえな歯で、俺の腕齧るなよ!!!? お前には胡桃があるだろ!!? 食事中だったんだろ!!? だったら餌の胡桃をカリカリ食え!!!」
すると。
「……。ふうん? 食事中だと…思ってたんだ? あの胡桃は僕の食料だと…。そこまで馬鹿にしてるんだ、僕のこと…。そして僕の胡桃のこと」
更に一層、空気が凍って。
「煌、屈め!!! 何か来る!!!」
途端――
びゅおーという風の切る重い音。
何事だ!!!?
ダンダンダン。
この鈍い音は…
壁か何かに埋まったのか?
何も見えねえ闇の中、耳に届くは…何かが何かにめり込んだような衝撃音。
正体が判らないだけに、その音は不安を煽るけれど。
緋狭姉の修行で、目隠しされたまま100本のナイフを投げつけられた経験がある俺としては、躱(かわ)すことは然程(さほど)苦痛には思わねえ。
刃物…でもないな、この音は。
この風を切る様は…かなり重量のあるものだ。
ダンダンダン。
何だよ、何だ!!?
頬すれすれに飛んでくる"何か"。
1つ2つのものじゃねえ。
神崎家の間取り思い出しながら、躱していく。
ひとまず今の処、記憶に相違はないらしい。
「櫂、大丈夫か!!!?」
「ああ…何とか」
緋狭姉との地獄の鍛錬していないのに避(よ)けられる櫂って、凄いと思う。
しかも…頻繁にウチに来ていたわけでもないのに、櫂もまた…神崎家の間取りを正確に把握しているのは、凄いと思うと同時に…何だか妬けてしまう。
それはきっと…俺の知らない、櫂と芹霞の歴史だと思うから。
芹霞は昔から、家の物品の配置を変えたがらないし。
だけど今は、そんなこと考えてる場合じゃねえ。
「櫂、この投げつけられてるの…なんだと思う?」
「ん…俺も考えていたけれど、思い当たらないんだ。リスが扱えて…こんなに沢山、連続的に投げられるもの目にしてたか?」
「小さい鉄球のような気もするけど…そんなものなかったし。それに…重量あるものをこんなに早くぶん投げられるなんて、怪力なのか、あの癇癪持ち…」
癇癪持ちは桜の特権だったけれど。