シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
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「次は…視覚ゼロ、触覚UP!! もう一回続けるよ~」

『…ということだ』


「何だよ、それ!!! うわ、うわっ!!?」


この過敏すぎる痛覚は、30秒で終わるから耐えよう…そう思っていたのに、延長宣言で…その覚悟も萎えた気がする。


飛び交う気配。

体に走る痛覚。


避けて宙に飛べば着地時点で体に痛みが走り、攻撃を受けた時も…攻撃に転じても、触れた部分に痛みが走る。


ペナルティーを食らっていた時のことを思い出す。


視覚が奪われたままだったのは確かだが…

あの時に触覚異常を感じていたか?


皿を手にしても、得体の知れないものを掴んだ時も、それを喉の奥に無理矢理落とした時も…俺には痛覚は感じなかった。


「煌…さっきのペナルティー時、触覚はどうだった!?」

「え!!? あ!!? 触覚って…芹霞に殴られた痛みが強烈で、よく判らねえ」


あの痛覚を超える芹霞の攻撃…とも思えない。


だとすれば…

ペナルティー時だけは…緩和されるのか?

視覚は戻っていなかったのに?


「……くっ!!!」


ペナルティー時、一度緩和されたように感じた"苦痛"は、今、見事に再現されている。

その急激すぎる痛みの蘇生は、何も見えない故に、不安という恐れを呼び込んだ。


だからだろう。


幾ら肉体を駆使して攻撃を避けたとしても、宙に浮いていられない俺達は…必ず体の一部が床に触れる。

攻撃を受ける時、攻撃をする時も然り。


普段なら何とも思わずにいた"接触"を、やけに条件反射的に過剰反応する自分がいるのを感じているんだ。

俺との意思関係なく、接触による痛みを受けることを、本能が回避しようとして…行動を躊躇(ためら)わせる。


気配を掴む第六感と、何とかしようと体を動かす意思と、体に返るダメージを軽減しようとする本能が、まるで噛み合っていない。

そして尚且つ本能は、他の3つの五感を必要以上に鋭くさせるから、五感の平衡感覚もてんでバラバラで。


「俺の…体なのに!!!」


結局は必要以上の痛みをくらう羽目になり、15秒後に動く氷皇が、背後から連続的に俺を沈め、息も震える痛みを連れて畳みかける。


体が…思うように動けない。

氷皇の動きに…萎縮してしまう。


ここまで俺は…"恐れ"に動けない男だったのか?

ここまで俺は…パニックになる体を持っていたのか?

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