シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
動物の声がもたらす――
刺激的な会話。
芹霞の料理がもたらす――
刺激的な悪臭と味。
そして、何を食べているか判らぬ恐怖故に、せめて触感だけでも無くそうと…俺は口呼吸に切り換えたりしていたはずで。
視覚については、中身を見たくないという思いが強くて。
その結果、氷皇が当初俺達に与えた五感異常は、俺の中では無効になっていたんだ。
意識がそちらに向いていなければ、五感異常は修正出来る。
五感は…自分の意思で統制出来る。
統制できるというのであれば、このゲーム…五感異常は障害にならない。
「次はどうしようかな~。もっと面白く出来ないかな、もっと…のたうちまわるものをさ…」
胡散臭い男の…愉快そうな声が響く。
嬲(なぶ)るのが趣味なのは、虚構も同じらしい。
より俺達が慌てて苦しむ姿を見るのがお好きらしい。
それでもきっと、現実の氷皇ならば…もっともっと効果的で容赦ないはずで。
ああそうか。
過去の記憶は惑わせるものでありながら、現実との相違を見つける唯一の手段でもあり。
記憶の蘇生。
利用するか、利用されるか。
それはある意味――
氷皇との頭脳勝負。
当初…確かに、簡単だとは思ったんだ。
猫やリスの動きを見切れるくらいの力は、俺達はあるから。
それは過信ではなく…緋狭さんとの修行を切り抜けてきた仲間であれば、当然のこと。
五感ではなく、心で。
それを教えられてきたからこそ。
心を…自分を立て直さねばならない。
五感を統制し、直感と意思を連携させないといけない。
考えろ。
切り抜けられる方法を。
このままでは、一方的にダメージを受けるだけ。
言い様にされて終わる…そんな気がするんだ。
終わればまだいい。
終わらず、ぐるぐる同じことを繰り返し続けていれば、俺達はずっと此処に囚われる。
「ニノ、経過時間は?」
『お答えします、櫂様。丁度5分を過ぎた処です』
苦しいな…時間が。
攻略を見つけたい。
どうすれば…。
「じゃあ次行くよ~視覚ゼロと…」
「待て!!! 作戦会議の時間をくれ!!」
そう言ったのは煌で。
煌は…相変わらず、怒れる芹霞に散々な目に遭わされている。
その攻撃力と言うよりも、芹霞に、という処にダメージを受けているようにも思える。
現実の芹霞の方が数倍優しい。
煌も…芹霞の愛に飢えているから、虐げられるのは辛いことだろう。
「5秒でいい。時間が欲しい!!!」
どうしたんだ、煌?