シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「うーん、俺はいいけど…。
クオンクン、レイクン…君達はいい?」
「所詮愚かなイヌの考えだ。5秒で何が出来るって?」
「そうそう。負犬が遠吠えしたいなら、させてあげようよ」
「腹立つな、お前ら~ッッッ!!!」
「あははは~。じゃあ許可するよ。アカ、5秒ね」
『馬鹿犬…仕事を増やしおって…』
冷ややかなアナウンスの声に、煌が飛び上がった気配がしたけれど、即座に煌は俺の横に来て小声で囁いた。
「聴覚を奪われる前にと思ってさ。なあ…櫂。気づいてるか? 久遠ニャンコは斜め基本の動きするが…玲リスは床を水平移動して走るか、垂直に飛んで噛み付くのが基本形。怒らせれば胡桃だの、電撃だのするが…その間本体は飛び跳ねたり移動はしねえ。胡桃は直線の動き、電撃は斜めだが…あれは1匹1匹がどうのというよりも、全部が協力して1つのものとして、斜めからくるな。全て…パターンがある」
俺は…まだまだ甘いらしい。
煌はそこまで感じ取れていたというのに、俺は五感に気を取られていて。
途端、煌の気がぶわりと大きくなった。
巨大な偃月刀に…顕現したのか。
「俺は…まだまだ炎の制御は出来ねえし。偽者とはいえ…知り合いの、小動物を燃やす程、俺は非情じゃねえし。だったら…これで叩き付けるしかねえけれど。体術より…大量の敵を組み伏せるのは、これが妥当だ。それにこれならまた触覚異常があっても、体は痛みに逃げられやしねえ」
煌も…打開策を考えていたのか。
武器、か…。
俺は…ポケットの中の血染め石を手にした。
知らぬ間に…蓮に用意されていた遠坂の銀の袋に入っていたもの。
それを見つけた遠坂が、別れ際手渡してくれた。
――久遠は、何だかんだ言っても…紫堂のこと好きなんだね。
身の毛もよだつことを、三日月目で言われたけれど。
俺の闇石。
久遠の導きでバスタードソードに初めて顕現出来たのは…感謝というより、あいつの力に驚嘆した方が強くて。
認めたくはないけれど、その力はやはり凄いモノなんだろう。
「ははは…白皇の後継者が…猫か。やる気がないのが祟ったな、あははははは」
「何だよ、オレがなんだよ?」
「ああ…とうとう狂って笑い始めたね」
久遠そっくりな悪態つく猫達。
「ああ…せりに忘れられて従兄に奪われて、おかしくなったんだろ?」
「ざまあみろだ」
………。
視界が…奪われていて逆によかった。
俺は…久遠の姿の者に、これを振り回したくない。