シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
『お知らせします。イヌの得点、マイナスから浮上しました』
「赤点テストも、同じこと聞きてえな」
煌の言葉を信じ、動かずに居れば…確かに相手側の動きはワンパターンで。
払うように攻撃すればいいのが判る。
『お知らせします。櫂様の得点もマイナスを脱出しました』
思わず苦笑する。
この姿になってから、落第点を取ったのははじめてかもしれない。
「お~、俺、お前より先に赤点突破したのか!!」
煌は…俺より聴覚の刺激が大きいのに、それでも影響されていない。
過去の記憶と比較することにより…現実の聴覚を調整しているのだろうか。
それが無意識にしろ…しかしそれは完全ではない。
だが煌は、このゲームの本質を悟っている気がした。
煌の聴覚は俺以上に凄まじくなっているはずなのに、その自覚はなく…余裕すら見えるのは何故だ?
煌の本能は、何を感じ取ってる?
その時、ビリリと何かが裂けるような音がして。
思わず手で耳を押さえようとしたが…その音の主は煌だったようで。
「まだ体がふわふわして変な感覚だな。
俺…自分のものを好き勝手に"奪われて"、振り回されるっていうのが性に合わねえんだわ。だったらこうして目隠しして。物理的に障害があるのだから、見えなくて当然だという環境に思い込んだ方がいい」
それは本能のなせる業かもしれないけれど、
「ふう…。ん、マシになったな。
俺主体で動いている気がすれば…よりはっきり現実感が湧く」
現実感、という言葉に俺はひっかかった。
現実に居る俺達が、何故現実感を無くしている?
何故、思い込まねばならない?
いつから俺達は、この世界に擬態している?
言い様にされて流される自分。
主観があるのに、それすら無効化される。
五感が自分以外の統制下にあり、
正常に機能出来ないというのなら。
それはまるで――
"夢"ではないだろうか。