シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


『お知らせします。イヌの得点、マイナスから浮上しました』

「赤点テストも、同じこと聞きてえな」


煌の言葉を信じ、動かずに居れば…確かに相手側の動きはワンパターンで。

払うように攻撃すればいいのが判る。


『お知らせします。櫂様の得点もマイナスを脱出しました』


思わず苦笑する。

この姿になってから、落第点を取ったのははじめてかもしれない。


「お~、俺、お前より先に赤点突破したのか!!」


煌は…俺より聴覚の刺激が大きいのに、それでも影響されていない。

過去の記憶と比較することにより…現実の聴覚を調整しているのだろうか。


それが無意識にしろ…しかしそれは完全ではない。

だが煌は、このゲームの本質を悟っている気がした。


煌の聴覚は俺以上に凄まじくなっているはずなのに、その自覚はなく…余裕すら見えるのは何故だ?


煌の本能は、何を感じ取ってる?


その時、ビリリと何かが裂けるような音がして。

思わず手で耳を押さえようとしたが…その音の主は煌だったようで。


「まだ体がふわふわして変な感覚だな。

俺…自分のものを好き勝手に"奪われて"、振り回されるっていうのが性に合わねえんだわ。だったらこうして目隠しして。物理的に障害があるのだから、見えなくて当然だという環境に思い込んだ方がいい」

それは本能のなせる業かもしれないけれど、


「ふう…。ん、マシになったな。

俺主体で動いている気がすれば…よりはっきり現実感が湧く」


現実感、という言葉に俺はひっかかった。


現実に居る俺達が、何故現実感を無くしている?

何故、思い込まねばならない?


いつから俺達は、この世界に擬態している?


言い様にされて流される自分。

主観があるのに、それすら無効化される。


五感が自分以外の統制下にあり、

正常に機能出来ないというのなら。


それはまるで――

"夢"ではないだろうか。
< 379 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop