シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
――まだ体がふわふわして変な感覚だな。
しかも、夢と現実の狭間が曖昧だというのなら…明晰夢にはなりえない。
なりえぬ夢は、想像力で偽りの…擬似感覚を創り出す。
現実的な…偽りの感覚を。
想像力を消すにはどうすればいい?
心が現実に確(しっか)りと根付いていなければ駄目だ。
心が確りとするには?
明確な証拠を…。
真実だという確固たる証拠を…。
今の状況の中で、真実のものをどうやって見つける?
俺は目を細めて、剣で猫を…反対側から襲いかかろうとしていた別の猫に叩き付けて、2匹諸共叩き落とした。
「煌…。今この中で、真実のものがあるとすれば何だと思う?」
囁く声は、煌にとってみれば十分聞こえるはずで。
煌の言葉は、時に啓示のように…本能的に答えてくれるから。
煌ならば…。
………。
ああ…聞いてからなんだけれど…
自分の質問の答えが判った気がする。
「そりゃあよ…。
櫂と…俺だけだろう?」
それ以外何があるんだと言わんばかりの笑いが聞こえて。
ああ、そうだ。
この中で、信じられる"本物"は、俺と煌だけだ。
だから俺は、煌に訊いたんだ。
俺は何この世界に馴染んでいたのだろう。
俺以外が、声1つで俺の五感を奪えるはずがない。
俺の五感は…俺のモノだ。
統制できるのは、俺だけだ。
だとすれば。
俺は――…
剣で自分の腕を切りつけた。
「馬鹿じゃないの?」
「馬鹿かお前…」
煩く大きく響く声が…小さくなる。
俺の痛みが、本当の痛覚が…
偽りの感覚を消していく。
真実の五感を…露呈する。
だから俺は――…
「煌、動くな!!!
お前を…
――斬るッッ!!!」
そう言って、剣を握り直し…
「は、え、あ!!!?」
殺気を飛ばした。
そして、慌てる煌に向け――
「櫂、冗談はやめろ、櫂!!!!?」
躊躇(ためら)うことなく、
剣を振るったんだ。
「櫂…お前…」
蒼白の煌の顔から――
ひらひらと…
目隠し用の布が落ちていく。
褐色の瞳が…驚愕と恐怖に見開かれていて。
「お前――…
何するよ!!?
操られたか!!?
どうしたんだ、櫂!!?
その腕…どうしたんだ!!?」
そう叫ぶから。
「よし、お前も…
見えるようになったな?」
俺は笑った。