シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「あ、どういうことだ!!? 何で突然オレの目、見えるよ!!? 耳も…普通に戻ったし!!」


俺は笑う。


「異常だと思わせられた五感は、"疑似感覚"だったのさ」

「疑似感覚?」


「ああ。錯覚みたいなものさ。実際は肉体的な異常がないのに、異常であると自分が思い込んでしまっていた。だから切迫した時、例えばペナルティーの時などは…その思い込みが薄れて別の方に意識が向いていたから、異常を感じなかった。

実際嗅覚が強まっていれば、人参の匂いなどあんなもんじゃない。きっとお前なら大ダメージに蹲(うずくま)っていたかもしれないな」


「あ!!? でも俺…視力は…」


「見たくなかったんだろう? 人参の形も、怒れる芹霞も…」


煌から返事がないのは、そう思っていたんだろう。


「だけど何だよ…それ…。

何で今、それが突然治ったわけ?」


釈然としないというように頭をガシガシと掻きつつ、偃月刀の背の部分で、斜め移動にて飛び跳ねてくる猫を、床に叩き付ける煌。


まるで八つ当たりのようで、猫が気の毒に思った。

そういう俺は、剣を囓るリスの首根掴んで、ぽいと遠くに放り投げている。


動物達の攻撃が、やけに落ち着き始め…襲いかかる数が極端に少ない。


敵意はあるというのに…

威嚇というよりは、俺達の動向を窺っているかのようで。


まるで…俺の口から――

結論が出終えるのを待っているかのよう…


…と思うのは、考え過ぎだろうか。


「此処は夢。厳密に言えば…夢に近い状況だ。

俺達の記憶を元に作られている場所。

何処までが真実の骨組みかは判らないが、大方は俺達の記憶が利用されているはずだ」


だからこそ、この神崎家には…細やかな傷があった。

俺達しか知り得ない、思い出があった。


知らず知らず俺達は――

明らかに自分の記憶と符合しないものは偽りとし、記憶と符合するものを真実と錯覚させられ…

結果、偽りは"ありえない"という主観を固定させ、ありえない事態の中から…ゲーム解決に至る真実を見出そうとして、五感だけではなく直感まで総動員させて…俺達の肉体はパニックを起こしていたのだと思う。


俺という"0"と、煌という"1"しかない世界に――

それ以外の数を無意識に許容し、その数を探していた。


愚かにも。



他を許容する余地はない程、単純な世界だったのに…必要以上に複雑にしてしまったのは自分自身。

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